『セレモニー黒真珠』(宮木あや子、メディアファクトリー)感想

セレモニー黒真珠 (ダ・ヴィンチブックス)セレモニー黒真珠 (ダ・ヴィンチブックス)
宮木あや子

メディアファクトリー 2009-03-25
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葬儀屋を舞台とする、ひねりのきいたコメディ

町の葬儀屋「セレモニー黒真珠」を舞台とする短編連作小説。すっげー面白かったです。ダークな方向に行くかと思わせて、ひょいと身を翻してすっとぼけたギャグをかましてみたり、そうかと思うとスパークする眼鏡男子萌え+妹萌えの世界に突入したり、それでいてじわりと涙腺を刺激するオチ(複数)が用意されていたりで、最後までまったく飽きませんでした。あと表紙! ワカマツカオリさんによる表紙と章扉がどれも悶絶もんの美しさで、見とれまくりました。
全6話のうち、特にハートを撃ち抜かれたのは「あたしのおにいちゃん」ですね。木崎くんの妹がめっちゃくちゃキュートだし、たたみかけるようなギャグでさんざん読者を笑わせた後、一分の隙もないセンテンスで鮮やかに幕を引いてみせるところにもうメロメロです。このお話は地下鉄の中で読んでいたのですが、「旧日本軍」のところで突如として肩をプルプル震わせ、「ミンチン先生」「絶望的なプレゼントセンスのなさ」でついに吹き出し、そのあとしみじみとため息をついて余韻にひたる、ということをしていたので、周囲の人はさぞキモかったことでありましょう。
他によかったのは、妹尾さんの「でもー」×3連発+コンビニの唐揚げ弁当の場面とか。鳥居さんのトランペットの曲目とか。あとはなんと言っても木崎くんが素敵すぎます。カッコ良くて内面もいいやつなのに、素でヘンな(と周囲からは見なされてしまうであろう)部分が山ほどあって、ギャップ萌えゴコロが刺激されるったらありゃしません。ちなみに恋愛小説としても面白くて、『花宵道中』の哀しさや凄みがお好きな方にもいいんじゃないかな、と思いました。サクッと読めるコミカルなお話なのに、ただ軽いだけでは決してないんですよ。ニヤニヤしたりしんみりしたりモエモエしたりと、非常に楽しませていただきました。

まとめ

無駄のない筆致でスパッと描き出された、「人生泣き笑い劇場」的ラブコメ。読んでる間中笑わされたり泣かされたりで忙しいので、人前で読むには注意が必要です。ちなみに百合ではないんですが(なんかあたしのことを百合物しか読まないと思ってる人がたまにいるみたいですが、違いますよー)、広く万人におすすめです。