『小玉ユキ短編集(1)』(小玉ユキ、小学館)感想

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小玉 ユキ

小学館 2008-01-25
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構成力と奇妙な味が光る、小玉ユキの短編集

いつも通りの確かな面白さでした。どのお話も、読み手の虚をつく構成や一風変わったあたたかみがとてもよかったです。ちなみに女のコ同士の友情を描く収録作「ROVER」がとてもよかったんですが、百合というよりあくまで「友情」路線なので、迷ったあげく「レヅネタ」タグはつけないことにしました。でも、人によってはこれ、百合漫画に分類するかもですね。

「ROVER」について

「OL優美子が高校時代に憧れていた大親友・顕(あき)は、実はホームレスになっていた」というお話。顕に「まとも」に生きて欲しいと願う優美子と、どこまでもマイペースな顕との対比の中で、ふたりの価値観の齟齬と交錯とが描かれていきます。

やがてお話はショッキングな展開を迎えるのですが、この作品がすごいのは、そこから単なるメロドラマに傾いていかないところ。言い換えるならば、ショッキングなエピソードを使って「ホームレスの暮らしは悲劇的、まともな生活が一番」というありふれた価値観――それは、優美子やこのお話の読み手の大半の価値観でもあります――を肯定して終わったりしないところ。逆に、それを踏み台にして、ROVER(放浪者)である顕の輝きをこれでもかとばかりに描き出してみせたのがこの作品だと思います。なぜ顕が優美子の憧れなのかがはっきりと伝わる、素敵なオチでした。

その他のお話について

「ちょっとした怖さや残酷さと、そこから一転した奇妙にあたたかいオチ」という点では、どれも「ROVER」と通じるものがあると思います。野球で言えば予想もつかない変化球、格闘技で言えば相手の虚を突いた見事な一本背負い、といった感じのお話が多く、その鮮やかさにはただ唸るばかり。以下、各話の簡単な紹介と感想など。

「マンゴーの涙」「白い花の刺繍」
ベトナムを舞台とするラブストーリー。エキゾチシズムと切なさと、「チー兄ちゃん」のキャラが最高。
「玉子王子」
ファンタジーかと思わせておいてちょっと残酷な展開、そして脱力した笑いをもたらすオチへと進んで行く不思議な物語。この肩の力の抜け具合、好きだなあ。
「憂鬱ヤマラージ」
死者を天国と地獄に振り分ける、天界の役人の話。キャサリンの美貌に爆笑。「恋愛」をちょっと斜めに見るオチも楽しいです。
Kakigori
美大生「さよちゃん」の片思い話。えらく衝撃的な場面があるのに、その緊張感が持続しないところが面白いです。

まとめ

女のコ同士の憧れと友情を描く「ROVER」もいいし、その他のお話もみんな光っている、素晴らしい短編集でした。同作者さんの『光の海』『羽衣ミシン』にはまった人なら即買いの一冊だと思います。