「あなたたちは人間だってことなの。だったら、ほかの人たちに人間でないことを期待するのはやめなさい」

以下は『ルアン先生にはさからうな』(ルアン・ジョンソン、酒井洋子訳、ハヤカワ文庫)pp305-306からの引用。底辺校の英語教師ルアン先生が黒人とヒスパニックの生徒たちに向かって叫ぶ台詞。おもに人種差別の話だけど、他のあらゆる不公平や抑圧にも通じるものがあると思います。

「あなたたち子供が腹を立てていることはわかっている」わたしはどなった。「なぜなら、世界が公平じゃないからだ。でも、そんなもの、とっとと乗り越えてしまいなさい。だって、世界はけっして公平になりはしないから。白人の男たちがすべての金とすべての権力を握っているけれど、それがこの世の現実だ。しかも彼らはそれを手放しはしない――あなたたちにも、わたしにも。だからって彼らを責めることはできないでしょ。だって、もしあなたたちが握ったら、あなたたちも彼らのために手放しはしないからよ。
(引用者略)
「いま現在、この教室には二十名の人間がすわっている」とわたしは言った。「もし、全世界に二万ドルしかないとしたら、しかもあなたたちの一人ひとりが千ドル、つまり全金額の二十分の一ずつを持っているとしたら、あなたたちは持ってるお金の半分を差しだして四十人の人たちと富を分かちあう? いったい何人が自分の力の半分を他人にあげる? 世界をもっと平等なものにするために?」当然ながら、だれひとりとして手を上げなかった。
「だからといって、あなたたちは身勝手じゃない。あなたたちは人間だってことなの。だったら、ほかの人たちに人間でないことを期待するのはやめなさい。あなたたちがそのお金をいくらかでも欲しいのなら、その権力をいくらかでも手に入れたいのなら、働いて手に入れなさい。学校へ通うもよし、訓練を積んでなにかに秀でるもよし、どん底から這い上がってのしあがるもよし――ただ、ほかの人間をいじめ、殴るのはやめなさい。そうしたところでどこに行きつけるというの。監獄行きか死ぬことになるだけじゃないの」
何かが欲しかったら、「ほかの人たちに人間でないことを期待」したってダメで、学ぶなり働くなり、とにかく自分から行動を起こしてもぎ取るしかない。ときどきそのことを忘れてしまって、やるべきこともせずに文句を言うだけで終わってしまいがちな(ほら、昨日のエントリだって保険のことをよく調べもしないで古い知識のまま書いてたぐらいだし)自分への戒めとして、ここにこの文を載せておきます。
ちなみにこの本はノンフィクション。海兵隊帰りの女性教師ルアン先生が、学校嫌いの荒れた生徒たちと真剣にぶつかり合う姿が描かれています。この先生は本当に「教えること」のプロで、まったくやる気のなかった生徒たちをシェイクスピアに夢中にさせてしまうあたりなど、舌を巻きました。ちなみに、続刊の『ルアン先生はへこたれない』もいいですよ。『ルアン先生にはさからうな』の方は、ミシェル・ファイファー主演で映画化(『デンジャラス・マインド 卒業の日まで』)されたりもしていますが、映画の方はあくまで別物のエンタテインメント作品として楽しむのがいいんじゃないかな、と思います。