髪が長かった時期のこと

今でこそ頭はベリショー、足元はカーゴパンツにスニーカーとかでうろうろしているあたしですが、長い髪でフルメイクしてスカートはいて生活してた時期もあったんでした、そういえば。あれはあれで自分が「女装」または「女のコスプレ」をしてるみたいですごくおもしろかったです*1。やってみると化粧もおもしろかったし、そういう格好をすること自体はとても楽しかったことを覚えています。

でも1〜2年でそういう格好はすっぱりやめました。理由は「『女のコスプレ』期間中は、人生でいちばんたくさん痴漢に遭遇したから」。
髪を伸ばしてスカートはくようになったとたん、映画館で触られる、電車で触られる、帰り道の街灯下にパンツおろした男が待ち構えてる、あげくの果てに女性専用アパート*2に侵入した痴漢に包丁で切りつけられるというすげー嫌な事態に陥ったんです。全部が全部偶発的なもんならまだしも、特に最後のはそうじゃなかったのが怖い。犯人は数週間前から下見をして、アパートの他の住人の部屋も吟味したあげくあたしを選びやがったんです。

あ、ひょっとしたら、実の父親に強姦されそうになった時期も、このロンゲ期間だったかも。もう記憶が定かじゃないけど。

で、「やってられるかバカヤロー」と思ってぱっつんぱっつんのベリショーにしてスカートもやめたとたんに、痴漢にはぱったり遭わなくなりました。顔も性格も体型も行動パターンもまったく変わってないのに、ヘアスタイルと服装だけでこうまで変わるもんかと驚きました。興味深いことに、痴漢以外で寄ってくる人――「好きです」とか「つきあってください」とか言ってまともに口説いてくれる人のことね――の量と質は、髪が長い時期も短い時期も全然変わってないんですよ。これは男女ともにそうです。長い髪の方がいい男が寄ってくるとか、ショートカットの方が女にもてるとか、そういう差異はほとんどなく、髪の長さによる変化は、「長い髪の方が痴漢を引き寄せやすくなる」ってことだけでした。
結局、長い髪やスカートなどの「女」の記号っていうのは、同時に「ここにカモがいます」という記号でもあるんだろうなと思います。綺麗でヒラヒラした格好をするのは楽しいけど、それには「カモ発見!」と寄ってくるアホと戦うコストがもれなくついてくるわけで、女稼業はしんどいことであるよ(詠嘆)。あたしはとっくに「やーめた」と戦線離脱してしまいましたが、気合い入れてフェミニンな格好を貫ける人というのは強いなー、あれはやっぱり「戦闘服」*3だよなと思っています。

*1:いや、体も性自認も女なんですけどね。

*2:厳密に言うとアパートというより学生寮みたいなとこでしたが。

*3:出典:『河よりも長くゆるやかに』(吉田秋生小学館