映画『嫌われ松子の一生』感想

とてもよかったです。特に最後の方の見せ方が、よかった。

「それでも人生は続く」というこの悲喜劇

美しくはあるけれど、安っぽくて、情けなくて、陳腐で、毒々しくて、悲しい。それが松子の一生なんだけど、だれが彼女を笑えるでしょうか。人生とは幕引きの瞬間を自分で決められないショウであり、残酷でも滑稽でも、人は最後までステージに立っているしかない。この映画がミュージカル仕立てなのは、そういうことでしょう。誰も自分の寿命を自分で選べない以上、人の一生って最後まで「ショウ・マスト・ゴー・オン」で続いてしまう悲喜劇なんだなと思いました。

死と救い

原作とは違ったラストシーンになってますが、あたしはあれでいいと思いました。映画の中で繰り返し出てくるモチーフがよく生かされ、泣けるオチになっています。緻密に張られた伏線がきれいに回収されていくのも気持ちいいです。最初の方のDVシーンやビビッドな色彩にめげて投げ出しそうになってしまった方は、どうか我慢して最後まで見て欲しいと思いました。ラスト10分にこの映画の全てが詰まっていて、そこがとてもすばらしいのですから。

繰り返されるモチーフ(以下ネタバレ)

※以下、ネタバレです※
「赤い薔薇」「蝶」「川」の3つが何度も何度も出てくるのがわかりやすくてよかったです。

このエントリの冒頭で、松子の一生を「美しくはあるけれど、安っぽくて、情けなくて、陳腐で、毒々しくて、悲しい」と書きました。赤い薔薇はそんな松子の人生の象徴だと思います。松子が幸せにしているシーンには、薔薇は出てきません。不幸なシーンになると、画面の中の壁紙に、花束に、造花に、必ずチープな赤い薔薇が咲き乱れています。そして、松子が死んで初めて、薔薇は白と黄色という違った色になります。くどいほどはっきりした演出ですが、あたしは好きです。

それから、こちらもたいへんわかりやすい演出ですが、蝶が魂を*1、川向こうが彼岸を表しているところも、よかった。最後に川を渡る蝶の姿は、やっと人生の幕が引け、笙という観客に理解されて昇華していく松子の魂を描いているのだと思いました。メリー・ポピンズ風のアニメーションを使ったシーンや、松子がいつも川を見て泣いていたというエピソードの意味がここで明らかになるわけで、じーんとしました。そのようなまとめ方のために、この映画は「許し」よりも「死と魂の昇華」に焦点を絞ったラストになっているのですが、あたしは、これでいいと思いました。

*1:念のために書いておきますが、昔の日本人は蝶を死んだ人の魂だと思っていたそうです。