『嫌われ松子の一年』(中谷美紀、ぴあ)感想
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何がすごいって、映画『電車男』のエルメスの演技について「私にとってあれは負け戦でした」(p137)「私は立っていただけです。監督と脚本と主演俳優が良かったんですよ。それにしても、宣伝の力ってすごいんだなあと思いました」(p144)と言い切ってしまう思い切りのよさがすごいです。中谷の自己を冷徹に見通す視線は本物で、それがこのエッセイをただのタレント本とは一線を画す存在にしています。苛酷な撮影の中、限界が来て役を降りようとしたときの心の動きなど、抑制のきいた筆致で、本当に冷静に、緻密に、きっちりと書かれています。そのいさぎよさはまるでサムライのようで、かなわねえなあと思いました。映画『嫌われ松子の一生』を観た全ての人と、俳優業という苛酷な職業の内実に関心がある全ての人に、お勧め。