『わかったつもり』

わかったつもり 読解力がつかない本当の原因わかったつもり 読解力がつかない本当の原因
西林 克彦

光文社 2005-09-20
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認知心理学の本です。最近読んだ本の中では一番のヒット。仕事(塾講師)に役立つかなと思って買ったのですが、自分の本の読み方や、レビューの書き方などにも大変大きな影響を与えてくれました。大げさに言うと、ものの見方が深まった気がします。
この本では、人がどのようにして文中に書かれてもいない意味を捏造してしまったり、部分の読みをすっ飛ばして誤解に陥ったりするのかが、とてもわかりやすく説明されています。「もしもしお母さん」という童話や「正倉院シルクロード」という長文を読む実験のくだりでは、読者自身の「わかったつもり」具合が明らかにされてしまうようになっており、思わず引き込まれます。ちなみにあたしは、間違った意味は引き出してはいなかったのですが、数に異様に弱いことがわかりました。特に正倉院の方は、何がいくつ書いてあったのか、まるで把握できていませんでした。ヤヴァイわ。
レビューを書く上で参考になりそうなのは、「第5章 『わかったつもり』の壊し方」でした。特に、このあたり(p195)。

  1. 整合的である限りにおいて、複数の想像・仮定、すなわち「解釈」を認めることになります。間違っていない限り、また間違いが露わになるまで、その解釈は保持されてよいのです。
  2. ある解釈が、整合性を示しているからといって、それが唯一正しい解釈と考えることはできないのです。
  3. しかし、ある解釈が周辺の記述や他の部分の記述と不整合である場合には、その解釈は破棄されなければならないのです。

このような制約条件のもとで、想像を逞しうして、部分間の緊密性を高める想像・仮定を構築しては壊し、また構築していく、これが「よりよく読む」という仮定の内実でなければならないというのが、本節の結論です。

文章だけでなく、映画やゲームも、この条件のもとで解釈した方が「よりよく読」めるなあと思いました。最近upした『バタフライ・キス』のレビューは、実はこの条件を念頭に置いてビデオを見ながら書いたものです。公開時にはただもう作品の暗さに引きずられるばかりでわけわかんなかった映画ですが、今回は劇場で見たときよりは「よりよく読」めた気がします。役に立つ本を買えてよかったなあ。