映画『真夜中の弥次さん喜多さん』感想

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宮藤官九郎

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原作とは違うところも多いけど、おすすめ

原作とはちょっと違うところも多いんだけど、全体としては男同士の濃厚なラブストーリーとして成り立っているところが素敵な作品でした。これを見て「わけわからん!」とか「同性愛者が侮辱されてる!」とか言って怒り出す人は、多分あたしとは違う人種だわ。シュールな「しりあがりワールド」を大胆な演出でうまく再現しているところも好きです。「ヒゲのおいらん」などの随所に散りばめられた爆笑ネタもたまりませんし、後半の「リアル」や「生と死」などの突き詰め方もよくできていると思いました。というわけで、おすすめです。

七之助最高

梨園の人に今さらこういうことを言うのも野暮だと思うんだけど、やっぱ演技うまいのよ七之助。綺麗だし色っぽいし、鬼気迫る場面では凄まじい迫力だし。「笑いの宿」でのコミカルなシーンもよかった。あと、再会時に子犬のようにヤジさんに飛びつくところなんて、もう、すんげー可愛いですよ。目の保養ですよ。

計算された「原作っぽさ」

浴衣の模様が「おいら」と「おめえ」だったり、キタさんの長屋の壁や障子に一面しりあがり寿の絵が描いてあったりと、どこからどこまで見事なしりあがりワールドなのは見事。実は漫画版の描写は全然そんな風じゃない(浴衣着てないし普通の長屋だし)んだけど、映画でアレを見たとたん「ああ、これはヤジキタだ」「しりあがり寿の世界だ」と納得してしまいました。

ミュージカルやバイクのシーンに代表される破天荒でテンポの良い描写も、観客を否応なく作品世界に引きずり込むことに成功しています。「うひゃー、バカバカしい」と思って見ているうちに、ぐいぐい引き込まれて「これぞヤジキタ」と納得してしまうんだよね。

というわけで、「何もかも原作通りにする」っていうのが即原作の香りを出すことじゃないんだな、あえて違うことをやって見せて「原作っぽい」と納得させてしまう手もあるんだなと感心したです。

漫画版との違い(女性がからむ展開)をどう評価するか?

ホモなのに「お幸ちゃん」に恋をするキタさん

違和感がないと言えば嘘になるけれど、完全否定するのも難しい展開だなあ。映画ではキタさんがリアルを怖がる理由らしきものが一瞬だけ描かれるんですが、それを下敷きにして考えれば、ありえなくもない気がします。つまりキタさんはホモフォビアが内在化された同性愛者という設定なのだろうと思ってあたしは一応納得しました。

勝手で弱虫なヤジさん

「お初」というキャラクターを入れることで、ヤジさんが「キタさん一筋の男らしいホモ」から「『勝手』で『弱虫』なポリのバイセクシュアル」に変わっちゃってますね。モノガマス同性愛至上主義の人ならこんなヤジさんを見て憤死するかも知れませんが、あたしはこんなヤジさんも好きだと思いました。そもそも現実にこういうことって一杯あるわけだし、かえってキャラに深みが出ていいかも、というのがあたしの受けた印象です。

三途の川の源流について

漫画版と最も違うところがここです。源流にいるのがアレ(伏せます)なので、幻覚キノコの森でのクライマックスも随分と違った展開になっています。

正直、「どっこい俺たちゃホモだもん」と始まった旅なのに大詰めでこれかよ!! というがっかり感はありますね。結局クドカンにとっての、つーか、ノンケさんたちにとっての「リアル」とか「原点」とかいうのはこれなのかしら。つまんね。レヅの目から見ると、そんなのぜんぜんリアルじゃねえよ。

だけど構成が上手すぎて、話の流れ的にはこの展開でも全然違和感ないのが凄い。さらに小池栄子のド迫力の演技が「つまんね」感を相当緩和してしまったのもまた事実。米を研ぐシーンの使い方にも思わず唸りました。あと、原作通りにするには序盤で空の守を登場させていろいろエピソードを入れなきゃいけないから、話のバランス的に難しいと思うんだよね。そんなわけで、100パーセント大満足ってわけではないけど、これはこれで納得だと思った次第です。

まとめ

同性愛者の目から見ると多少は納得のいかない部分もあるけれど、主演二人の白熱のラブラブカップル演技や、怒涛のテンポとギャグで描き出すしりあがりワールドはやっぱり必見でしょう。とにかくあたしは全体としてえらく気に入ったので、スペシャルエディションのDVD買って擦り切れるほど観てるってことだけ書いておきます。