映画『オペラ座の怪人』感想

昨日ようやく『オペラ座の怪人』を観に行ってきました。良い映画でした。観終わってから、”Angel of Music”だの”The Point Of No Return”だのが頭の中で鳴り響いちゃって止まりません。あたしの頭の中でも音楽の天使が歌っているのかも知れません。

パンフレットではこれを「ラブストーリー」と評しているのですが、あたしはそのようには受け取りませんでした。ファントムの属する世界とラウルの属する世界との対比、その中で揺れ動くクリスティーヌという構造は、恋愛物語という単純なキーワードだけでは読みきれないからです。

ファントムの世界とラウルの世界とは、「聖」対「俗」でありながら「邪悪」対「善」でもあり、「天才」対「凡人」、「狂気」対「正気」という文脈でも読み解けると思います。音楽の天分を持って生まれたクリスティーナがThe Point Of No Returnに踏み越んでしまう瞬間の官能を目撃する、というのがこの映画の最大の楽しみではないかと思います。また、その瞬間を描いた劇中劇”Don Juan”のセクシーさといったら圧巻です。

ファントム、ラウル、クリスティーヌの三角関係の行方について言えば、終幕近く、三人の運命が決するところのクリスティーヌの決め台詞が非常に西洋的でうまいなと思いました。あの場面で誰にも嘘をつかず、しかも八方うまくおさまる言葉をヒロインに言わせるというのは、頭が論理的でない日本人には難しいと思います。あの台詞があったからこそファントムは納得し、この話が単なる復讐譚ではなくなったのでしょう。

ところで映画を観終わってから知ったのですが、このアンドリュー・ロイド・ウェバー版というのはウェバー自身のドロドロした情念がずいぶん色濃く投影された作品らしいですね。ウェバー自身が、あふれんばかりの音楽的才に恵まれながら醜男である自分にたいへんなコンプレックスを持っていて、初代クリスティーヌを演じた歌姫サラ・ブライトマンと結婚してるぐらいですから、そりゃもう怪人に感情移入しまくった演出にもなるでしょう。

この映画に注文をつけるとしたら、オチのあの白黒版の部分がとってつけたようでしかもセンチメンタルすぎることと、ファントムの生い立ちを具体的に説明しすぎて興ざめなこと。これも観終わってから知ったんだけど、あれってどちらもこの映画版で新たに付け加えられた部分なんですってね。なんだよー、いらんもん付け加えて余韻をぶち壊すなよー。もう少し観客の想像力を信頼して、ミステリアスな部分を残してくれればいいのに。しょせん、映画は観ても芝居はあまり観ないような無教養な貧乏人の負けってことなのかしら。

でも、予告編でおなじみの、ボロボロのオペラ座が例の音楽とともに昔の豪華絢爛な姿に戻っていくシーン、あれは映画じゃないと絶対できないし、あのシーンだけでゾクゾクして涙が出そうになるほど素晴らしかったから、やっぱり映画版を観て良かったです。ぜひDVDもゲットして、扇子片手に「マースカレード♪」とか歌いながら鑑賞しようと思ってます。(余談だけどこの映画、さすがアンドリュー・ロイド・ウェバー作品だけあって、ダンスがゲイゲイしくて良かったわよー)