英映画『パレードへようこそ』の日本語字幕がひどい件

たった今WOWOWシネマで字幕放送中の『パレードへようこそ』を見てるんだけど、日本語字幕で「レズビアン」がことごとく「レズ」と訳されていることに閉口。主人公たちが作ったグループ"LGSM"(Lesbians and Gays Support Miners)が「炭坑夫支援レズ&ゲイ会」になってる上に、偏見を持ってないはずのキャラたちの台詞もこうなのよ。

「レズは面倒だがゲイなら一人ぐらい……」

「今すぐゲイかレズと話しに行きなさい」

ちなにに上がクリフ(ビル・ナイ)、下がヘフィーナ(イメルダ・スタウントン)の台詞。どちらも同性愛者を差別するようなキャラじゃないし、英語ではちゃんと"lesbian"("lesbo"でも"dyke"でもなくね!)と言ってるのよ。なぜ、わざわざ、たった3文字を惜しんで「レズ」にする!?

レズビアン」と「レズ」のニュアンスの違いもわからない訳者にこんな大切な映画を訳してほしくないわ。そりゃもちろん、日本にはレズビアンのことを「レズ」と呼ぶ女性同性愛者もいるけど(あたし自身も親しい人とのプライベートな会話でならこの語を使うこともあります)、この言い方にからみついたネガティブなイメージを嫌う女性同性愛者だってたくさんいるのに、なんで後者は無視されるの。難しい言葉なんだよ、誰でもいつでもどこでも文脈無視して使えるってもんじゃないのよ。これじゃまるで、仲間うちで「ニガ」と呼び合う黒人が存在するからって、原語で"African American"と言ってる部分まで全部「ニガ」と訳すぐらいの暴挙だよ。「その方が文字数が少ないから」っていう言い訳は通らないんだよ。まったくもう。

言っておくけど、たとえば『ジャンゴ 繋がれざる者』でレオナルド・ディカプリオ演じる人種差別主義者の白人農園主が"niggar"と言う場面を字幕で「ニガー」と訳すのは別にいいのよ。でも、同じく『ジャンゴ』でドクター・キング・シュルツ(クリストフ・ヴァルツ)が「わたしの従者(valet)は歩かない」と言う場面でわざわざ「わたしのニガーは歩かない」に改竄したら変でしょ。それはシナリオの意味やキャラの性格をねじ曲げることになるでしょ。原語できちんと"lesbian"と言っているクリフやヘフィーナにわざわざ「レズ」と言わせるというのは、それと同じぐらいの改悪なんだけど、そんなこともわからない人がよりによってこの映画の翻訳を担当しちゃうのか……。

プロの仕事に「知らなかったんだから仕方ありません」は通らないし、誰の仕事でも「差別するつもりはなかったんだから差別ではありません」は通らないよ。この作品は北米版DVDでしか鑑賞していなかったため、日本語で見るのもいいかなと思って録画しかけたのですが、そんなわけで残念ながら途中でやめました。最近、LGBTテーマを持つフィクションについては「日本語圏のエンタテインメントには期待しない」と決めてなるべく近寄らないようにしている(海外発の良質な作品が山ほどある昨今、無邪気な差別表現に出くわすリスクが高すぎる国のものまでカバーしている時間の余裕はありません)のに、それでもこういう代物にぶち当たるのは本当に困るわ。

ちなみにちょっと前、リリー・トムリンがレズビアンのおばあちゃんを演じる『愛しのグランマ』(原題:Grandma)を日本版DVDで見たんだけど、こちらの字幕(武田佳子さん訳)ではちゃんと「レズビアン」という訳語が当てられていました。だからやっぱり文字数の問題ではないし、ましてや「日本語なら『レズ』表記になるのが当たり前」とかいうわけでもないんです。とどのつまり、翻訳者と訳文をチェックする人の質の問題なんでしょうね。こういうアタリハズレが嫌だから、日本語でコンテンツを見るのがますます嫌になるんだよなー。嫌さがこうじて外国語学習がますますはかどる(おかげでスペイン語でのエンタメ視聴もけっこういけるようになってきました)のはありがたいんだけど、自分の生まれ育った国がいつまでたってもこの体たらくというのは悲しいです、やっぱり。