ありがちな性犯罪者の自称「性暴力について考えるうえで大事な資料」なる犯罪手記を読んで思ったこと

ヒグマに出くわしたようなものだった

シルバーウィーク初日あたりに、支配欲と操作欲の強い性犯罪加害者が幼少時からの加害のおもひでを縷々綴ったあげく、最近の操作成功例を挙げてあたかも「支配力かくにん! よかった」と欣喜雀躍しているかのようなブログエントリ魚拓)を読んでしまい、大ダメージを受けてなかなか立ち直れずにいました。

ここまでひどいダメージを受けたのは、上記加害者が摂食障害患者や性虐待被害者の女性たちの不安定さにつけいり、自分の心(や、性欲)を慰撫するオモチャとして利用していた(ように読める)上に、相手に及ぼした金銭的・身体的・精神的被害についてびっくりするほど無頓着だった(ように読める)から。摂食障害経験者で、かつ性虐待被害者でもある自分としては、エントリ筆者のあまりにもベタな加害者っぷりに衝撃を受けたんでした。既視感ありすぎだわ、ああいう加害者。

おかげで上記エントリを読んだ瞬間、体が反射的に「闘争・逃走(ファイト・オア・フライト)」モードに入ってしまい、アドレナリン過多で髪は逆立ち心拍数も上がり、胃がでんぐり返り、完全に落ち着くまでに丸2週間もかかってしまいました。なんというかこう、日本に野生のヒグマが生息しているということや、ヒグマが人を襲うということを知ってはいても、ある日玄関開けたときに目の前に口元を血まみれにしたヒグマが仁王立ちしてたらショックでしょ。なんでこんなのが野放しになってるんだとも思うし、自分が直接危害を加えられなくてもしばらく悪夢にうなされるぐらいはするでしょ。ましてや、過去に別のヒグマにざっくりやられた傷跡を持つ人なら、なおさら。ちょうどそんな感じのダメージでした。

ヒグマのたとえでもわからなければ、「渋谷のスクランブル交差点に血がしたたるナタをひっさげた男があらわれ、『赦された! 赦された! 昔ナタで切りつけられたことがある女の子を人気のない場所に呼び出してこのナタを見せたら、僕のトラウマを赦してくれた! 被害者には加害者を赦す力があるんだー、とても簡単なことなんだー!』と叫びながら目の前1メートルぐらいのところを駆け抜けていった」ぐらいの衝撃だったと言えば少しは伝わるでしょうか。わからない方にはこれでもまだわからないかとも思うんですが、とりあえず話を先に進めます。

ありがちなヒグマだった

上記エントリを書かれた方は、自らの加害歴(女の子のリコーダーをこっそり吹いた、体操着や下着を盗んだ、元彼女が新彼を作ったのが許せず摂食障害に追い込んでセックスさせてから捨てた等々)の吐露を「性暴力の問題を考えるうえで大事な資料」と称されていた*1ようです。本当にそれを資料として「貴重」と考える人もいた*2模様。しかし、貴重どころか珍しくもなんともないでしょう、この手の人。彼は、ジョージ・サイモンが『他人を支配したがる人たち』(草思社文庫)でマニピュレーターと呼び、スーザン・フォワードが『となりの脅迫者』(パンローリング)でブラックメール心理的恐喝)発信者と名付けた人々のうちの、ほんのひとりにすぎません。つまり、自他の境界線が薄い人を嗅ぎつけ、罪悪感や義務感で操って自分の欲するもの(性的満足、相手への懲罰、不安の解消等々)を提供させようとするタイプの加害者ね。

エントリ筆者が、自分が被害者におよぼした金銭的・身体的・精神的ダメージに無頓着であるかのような記述をしている*3一方で、「性嫌悪」というキーワードで自分の苦しみを強調する*4あたりも、サイモンが上掲書で述べた"the tactic of playing the victim role"(犠牲者ぶって自己正当化する戦略)から一歩も出ていないかのように、自分には見えました。また、生身の女の子の性的欲求を「そんなわけあるはずないじゃないか…」と勝手に否認し続けるあたりは、パトリシア・エバンスがControlling People: How to Recognize, Understand, and Deal with People Who Try to Control Youで指摘した「テディベア幻想」に通ずるものがあると感じました。これは、コントロール欲求が強い人が他者を自分にとって都合のよい言動だけをとってくれるテディベアのようなものと見なし、思い込みと食い違う言動を取られると勝手に幻滅したり、腹を立てたりするという現象のこと。あのエントリ筆者、かなりこれに当てはまるのでは。

百歩譲って、彼のエントリは「彼自身の再犯防止のためには」とても大事なものであったと言うことはできるかもしれません。累犯受刑者の更生支援の専門家、岡本茂樹氏は、著書『反省させると犯罪者になります』(新潮新書)の中で、犯罪者の再犯リスクを減らすためにはまず加害者の視点から加害者なりの痛みや犯行理由を吐き出させることが大切だと説いています。その吐き出しを経ずに最初から「反省させる」、あるいは「被害者の心情を考えさせる」のは逆効果なのだそうです。そういった意味では、当該エントリは、書き手、つまり加害者本人にとっては一定の価値があると言えるかもしれません。しかし、性犯罪者からの被害経験を持つ一個人として言わせてもらえるなら、「またか」「またこんなんが現れたか」「せっかく逃げ切って平和に暮らしてるのに、またこんなん見なかんのか*5」としか思えませんでしたよ。正直うんざりだよ。

そんなわけで、彼は自分の目には本っっ当にありがちな、言うなれば「となりの性犯罪者」タイプとしか映りませんでした。言うなればそのあまりのありがちさがかえって恐ろしすぎて、あたしはこの2週間「危険危険危険危険危険」「逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ」「戦え戦え戦え戦え」という体からの強烈な警戒警報に苦しめられていたのでした。いくら頭が「この人はどこか遠くにいるんだから大丈夫、何もされない」と言い聞かせても、からだにとってはそんなこと知ったこっちゃありませんからね。比喩ではなしに心臓がバクバクし続け、仕方がないので自分なりにいろいろと対策(後述)を講じて、夜はしばらく安定剤を飲んで強制的に寝るようにしていました。

ヒグマに近寄っていく方々

上記のように身体面ではとてもキツかったものの、この「逃げろ」という動物的な警戒警報がキャッチできただけ、自分はまだましなほうだったのかもしれません。上記エントリははてな界隈やTwitterでずいぶん話題になり、いろいろな方が感想を述べておられましたが、中には加害者(ブログ主)を理解しようと試みてかえって苦しくなってしまった方や、加害者の立場に立とうとするあまり、彼を批判する人を無知な人扱いして侮り始める方なども見受けられましたから。どちらの例にせよ、この「(苦しくなったり、他人を悪く言ったりしてまで)マニピュレーターを理解しよう」という態度は、ジョージ・サイモンの言うところの"Over-Intellectualization"(過度の知性化)という行為でしかないと思います。マニピュレーターたちが好んで付け込む弱点のひとつですよ。以下、ちょっと『他人を支配したがる人たち』の英語版(In Sheep's Clothing: Understanding and Dealing with Manipulative People*6)から"Over-Intellectualization"(過度の知性化)の説明をいくらか抜粋して試訳してみます。

あなたは理解しようとがんばりすぎるタイプかもしれない。さらにその上、人間というものは筋の通った理解可能な理由があるときだけひどいことをするのだと思い込んでいたりしたら、あなたは「マニピュレーターの行動の理由を全部明らかにして理解すれば、それだけで状況が変えられるのだ」と勘違いしてしまう可能性がある。あなたはある時には、マニピュレーターがなぜそんな行動をとったかということに過度に集中しすぎて、うっかりマニュピュレーターのしたことの言い訳をしてしまうかもしれない。またある時には、事態に夢中になりすぎて、誰かがただ単にあなたより優位に立とうと奮闘しているのだということや、あなたの時間やエネルギーは自分自身を守ったり力づけたりするのに必要なステップを踏むのに使うべきだということを忘れてしまうかもしれない。

You may be one of those persons who tries too hard to understand. If you're also one who assumes that people only do hurtful things when there's some legitimate, understandable reason, you might delude yourself into believing that uncovering and understanding all the reasons for your manipulator's behavior will be sufficient to make things diffent. Sometimes, by being overly focused on the possible reasons for a behavior, you may inadvertently excuse it. Other times, you might get so wrapped-up in trying to understand what's going on that you forget that someone is merely fighting to gain advantage over you and that you should be devoting your time and enegy to taking necessary steps to protect and empower yourself.

自分の観測範囲だけでも、これに当てはまりそうな方をたくさん見かけた気がします。サイモンは、マニピュレーターは誰かのこのような弱みを把握することでその人に対する影響力を手に入れると書いているのですが、過去の経験から自分も「その通り」と思わざるを得ません。加害者の「理解」は、本人と正式な治療契約を結んだプロの医療関係者が専門的知識と技能をもって取り組むべきことであって、素人が手を出しても共依存のダンス*7に巻き込まれて事態を悪化させるだけです。逆に言えば、このダンスに自ら加わってしまう人が少なくないからこそ、マニピュレーター/ブラックメール発信者がいつまでも支配や操作を続けられるのだとも言えるのですけれども。自分も以前はどこに出しても恥ずかしい共依存ダンサーだったので、あのエントリから始まる共依存スパイラルは見ていてけっこうつらいものがありました。

誰でもできるヒグマ対策

これまで長年実践してきて、この2週間また改めて自分に言い聞かせていたマニピュレーター/ブラックメール発信者対策を、以下にちょっとまとめてみようと思います。元記事を読んで具合が悪くなった方々の今後のご参考にでもなれば幸いです。

専門家に助けを求める

加害者(になりやすいタイプ)の回復もそうですが、被害者(になりやすいタイプ)の回復もまたカウンセラーや心療内科医、精神科医などの専門家の手助けをあおぐのがベストだと思います。餅は餅屋、つらいときはさっさとプロに頼るのが早道。通院が必要ないぐらいまで回復しても、念のため常備薬を処方してもらっておくと吉。

知識を得て、学び続ける

既存の研究や分析に目を通し、先人の知恵を知っておくと、それがいざというときのための懐刀になってくれます。

参考までに前述の『となりの脅迫者』でスーザン・フォワードが提唱しているブラックメール発信者対策をざっくりまとめてみると、以下のようになります。

  1. 心の準備をしよう
    • 1週間、ひとりの時間を毎日15分確保して以下のことをする
      • 自分自身と交わした契約書を作り、毎日読み上げる
      • 自分を力づけるための言葉(パワーステートメント)、すなわち「私には耐えられる」(『ブラックメール発信者の気持ちを傷つけること』、『罪悪感』、『不安』などに耐えられるの意)を口に出して言う
      • 自分を肯定するフレーズ(セルフアファーミングフレーズ)、すなわち「私は自分が求めるものを求める、たとえそれでブラックメール発信者が腹を立てるとしても」「前は〜だったが、もうそんなことはしない」などを口に出して言う
  2. SOS(Stop、Observe、Strategize)を発信しよう
    • 止まれ(Stop)=「何もしない」ことを選ぶ
      • 時間稼ぎのフレーズを使う:「いますぐには返事できない」「重要なことだから、少し考えさせてくれ」などと言い、最低24時間の時間を確保する
      • 逃げる:「私は何もしない、それが私の決断だ」など
      • 距離を置く:水を飲みに行く、トイレに行くなど
    • 観察せよ(Observe)
      • 視覚化する:感情ではなく認知力と理性で「本当は何が起きているのか」を観察する。相手は何を求め、要求はどのように出されたのか、あなたがすぐ同意しないときブラックメール発信者はどう反応したかなど。自分のからだの反応もチェック。(『肉体の反応は否認と合理化を突き抜けて進行する。しかも、肉体は嘘をつかない』)
    • 戦略を練ろう(Strategize)
      • 自己防衛的ではないコミュニケーション
      • ブラックメール発信者を味方に変える
      • 取り引き(等価交換)
      • ユーモアの利用
    • 注意:ブラックメール発信者が激しやすい人だったり、危険な行動に出る可能性のある人だったりしたら、安全なところに逃げて助けを求めること。ひとりで対決してはいけない

これを応用すると、たとえばこういう行動がとれるわけです。

  • 恋人でも家族でもない男性からいきなり人気のない場所(夜中の大学の屋上など)に連れて行かれそうになったら「いますぐには返事できない」「少し考えさせて」などと言って時間を稼ぎ、最低24時間たってから判断する
  • 親しくもない相手から性加害歴を告白されても「私は何もしない」との旨だけ伝え、特にコメントも判断もしない
  • 元彼がこちらの罪悪感を煽って新彼と別れさせようとしてきても、「私には耐えられる」と毎日自分に言い聞かせ、コントロールされないようにする
  • 摂食障害で苦しんでいるときにわざわざ甘菓子を食べさせようとしてくる(これはかえって症状を悪化させる行為です。こんなことをしても回復しないし、浄化行動(パージング)を煽るだけです*8)人がいたら、「私はこれを食べない、たとえそれでブラックメール発信者が腹を立てるとしても」と自分に言い聞かせ、菓子は捨てるか人にあげるかする

けっこう使えそうじゃない?

運動する

ヨガには、心の静かな状態を作り出すため、まずからだに働きかけるという考え方*9があります。面白いことに、最新の科学の知見でも、運動は脳の認識の柔軟性や心の適応能力を向上させるとする結果が得られています。くわしくは『脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(ジョン・J・レイティ&エリック・ヘイガーマン、日本放送出版協会)を。短距離ダッシュで心拍数を上げ、パニック発作時のからだの反応とすり替える治療法(こうすると脳が『心拍数の変化は自分でコントロールできるもので、望ましいこと』と学習し、不安が起きにくくなるんだそうです)なんてのが紹介されていて、面白いですよ。

これを応用して、シルバーウィークの1週間はとにかくからだを動かしまくって過ごしていました。「いかん、心臓がバクバクする」と思ったら、すぐに筋トレとかヨガとか大がかりなDIY作業とかに打ち込むわけです。で、「心拍数が上がってるのはからだをハードに動かしているからだ! 不安だからじゃないのだ!」と脳味噌に言い聞かせるわけ。これが、なかなかよかったです。

アドレナリン効果で筋トレでの使用重量もぐっと伸びたし、DIYで作った巨大キャットタワー(ちなみにベランダ用)も無事完成したし、最終的には心の平静も取り戻せて、実り多き休日となりました。「不安になったらからだを動かす」作戦、おすすめです。タワーで遊べて、猫も喜んでますし。

大雑把なまとめ

だんだん疲れてきたので、大雑把にまとめるよ!

  • マニピュレーター/ブラックメール送信者はどこにでもいる
  • マニピュレーター/ブラックメール送信者の加害者視点の心情吐露は、「本人の再犯防止のためには」大事かもしれないが、べつだん貴重なものではないし、既に研究や分析もされている
    • ていうかそれ、天下の往来でパンツをおろして尻にできたおできに薬を塗りながら「ぼくの半ケツはおできについて考えるうえでの大事な資料」と主張するのと何が違うん
    • 専門家がとっくに研究してるだろ、それ。援助も専門家がやってるだろ
  • うっかり見ず知らずの人の半ケツが目に入ってしまった場合、反射的に「理解してあげる」「力になってあげる」と近寄っていく前に、まず自分を大切にした方がいい

参考文献一覧

  • 『他人を支配したがる人たち』(ジョージ・サイモン、草思社文庫)
  • 『となりの脅迫者』(スーザン・フォワード、パンローリング)
  • Controlling People: How to Recognize, Understand, and Deal with People Who Try to Control You(Patricia Evans, Adams Media)
  • 『反省させると犯罪者になります』(岡本茂樹、新潮新書
  • 『焦らなくてもいい! 拒食症・過食症の正しい治し方と知識』(水島広子日東書院本社
  • Tarzan』2015年 9/10号
  • 『脳を鍛えるには運動しかない!―最新科学でわかった脳細胞の増やし方』(ジョン・J・レイティ (著)&エリック・ヘイガーマン、日本放送出版協会

*1:現在、当該のエントリ(http://ymrk.hatenablog.com/entry/2015/09/22/124105)は消去されています。

*2:参考:性嫌悪と自らの加害者性について書いた記事の反響(見つけられた分だけ) - Togetterまとめ

*3:成人した後も、盗んだ体操着の値段についてすら考えたことがなかったようです。参考:http://kutabirehateko.hateblo.jp/entry/2015/09/20/155619

*4:シリアルキラーの半数が性嫌悪があると自己申告した」とする報告もある(Myers, W.C., Reccoppa, L., Burton, K., McEloy, R. (1993). Malignant Sex and Aggression: An Overview of Serial Sexual Homicide. the American Academy of Psychiatry and the Law vol. 21 no. 4 435-451.)ようですし、性嫌悪が加害欲と何らかの関係を持つ可能性は完全には否定できません。だとしても、自らの加害傾向から生じた劣等感の慰撫をよりによって性虐待被害者にやらせるのは搾取の上塗りだし、それで「赦された」とはしゃぐのは厚顔だし、その行為を「現代の日本社会」のせいにする(消去されたエントリの記述です)のは卑怯です。

*5:「見なかん」:「見なければならない」の意。

*6:なぜ英語版からの引用なのかというと、日本語版が出ているとは知らなくて、わざわざ英語版で読んじゃったからです。

*7:共依存のダンス("codependency dance")とは、コントロール欲求の強い人/ナルシシスト/依存症患者と、そのような人々を喜ばせようとする(共依存の)人々の間にしばしば観察される、振り回したり振り回されたりする不健康な人間関係のこと。参考:Codependency, Don't Dance! | Ross A. Rosenberg

*8:精神科専門医の水野広子氏は著書『焦らなくてもいい! 拒食症・過食症の正しい治し方と知識』(日東書院本社)の中で、「『拒食』の人に食べさせようとしたり、過食を止めたりすることには、何の意味もないばかりか有害です。それぞれの症状には、『現状で何とか生きていくためのバランスをとる』という機能があるため、単にその症状を奪うことはまずできないですし、奪い取ったとしたらもっと深刻な病気に入れ替わるだけかもしれません」(p. 124)と指摘しています。

*9:「似ているけど何が違う? ストレッチとヨガの効果効能」. 『Tarzan』. 679. p. 40.