「もっと下手に出て、マジョリティの気分を害さないように説明しないと聞いてあげませんよ?」派の皆さまへ

2015年2月8日のエントリで、“何をどう説明しようと、

「もっと下手に出て、マジョリティの気分を害さないように説明しないと聞いてあげませんよ?」

と言うだけで何も変わらない人がいる”という趣旨のことを書いたのですが、本当にこの通りの(言い回しに多少のバリエーションはあるにせよ)ことを主張される方が大量にいらしたので半ば驚き、半ばウケました。ひょっとしたら皆さま、このくだりは読み飛ばされたのでしょうか。いっそジョジョ風に噛み砕いて、「次におまえは〇〇というッ!」とでも書いた方がまだお目にとまりやすかったのかもしれませんね。その伝で言うと「次に、同性愛者を名乗る者が、『自分は同性愛者ですが、みやきちの言ってることはおかしいと思います!』という!」というのが現在の予測なのですが、もう既にそういうご意見も出回っているんじゃないかとも思います。

ところで上記のような、言うなれば「差別されるのが嫌なら怒らず優しくわかりやすく説明せよ、さすれば我(ら)の『理解』や『支援』という名の恩寵を賜るぞよ(大意)」的なたいへんありがたいご託宣は、1996年に出版された『差別と共生の社会学』(井上俊 et.al. 岩波書店)で既に明快に批判されていると思うのですが、それから20年近くたってもいまだこのような状況であるというのはいったいどういうわけなのでしょう。本当に「わかりたい」と思っていらっしゃるのなら、「赤の他人がなぜか自主的に時間や労力というリソースを費やして、怒らず優しく懇切丁寧にものを教えてくれる」という奇跡など待ったりせず、まず書籍という知の集合にあたりそうなものだと思うのですが。こういった方々のお住まいの近くには、図書館や本屋さんはないのかしら。

以下、同書pp. 26-27より少し引用しますよ。

そこに差別があることを告発し、差別の何たるかを懇切丁寧に説明し、「マジョリティ」の<無知>――指摘されるまで見て見ぬ振りしていること――を解消するのは、まるで被差別側「マイノリティ」の役割でもあるかのように、誤解されてきた。「マジョリティ」は、「(教えてもらわないと)わからない」を繰り返す。この「マジョリティ」の<依存>は、「マイノリティ」というアイデンティティの消費/搾取である。良識派たらんとする「マジョリティ」こそが、実は、差別を告発する「マイノリティ」を、依存対象として必要としている。

では、「マイノリティ」はいっさい、誰に向かっても語るべきではないのか。表現すべきではないのか。いや、そうではない。(引用者中略)わたし自身のために、わたし(たち)に向かって語ることが、「マイノリティ」にとって、反差別の迷路から抜ける<出口>なのだ。

結局、被差別者が、その差別を告発するのは、単に自分自身に対する義務だからである。差別を放置しない、自ら内面化しないための。決して、差別をなくす責任を一手に引き受けたからではない。ところが、「マジョリティ」たちは、こうした「マイノリティ」の告発を、<支援>するというかたちで、反差別の態度をとろうとする。だが、差別と戦う主体となり、差別をなくす上で、社会的義務と責任を全うすべきなのは、むしろ、差別する側の人々なのであって、被差別者ではない。それを、「マジョリティ」が「マイノリティ」を<支援>すると言った途端、その責任は巧みに「マイノリティ」側に転嫁され、「やってあげる」「やってもらう」という上下関係が生じて、再び「マジョリティ」側が有意に立つ。これでは差別構造の上塗りとなるだけだ。

わたしはわたし自身のために、「自分が過去に書いたものが曲解されて、こともあろうに同性愛者に対する差別的な言辞を正当化するために使用された」ということに対する怒りの告発をしたのです。けっしてボランティアで優しくあなたがたを教育・啓蒙するためでも、それによって理解・支援「してもらう」ためでもありません。ましてや差別を「やめてもらう」ためでもありません。何か勘違いして権力勾配の上座から「もっと優しく教えて我々を納得させよ(大意)」などとおっしゃる方々に伝達したいことなどはなから何ひとつないし、逆に、意を伝えたい人たち、すなわちセクシュアリティを問わずわたしが勝手に「わたし(たち)」と思っている大事な人たちには十二分に伝わったという手応えを、わたしは感じています。

最後に、同性愛イシューやLGBTイシューを本当に「わかりたい」と思っていらっしゃる方々のために、おすすめ書籍のリストを挙げておきます。カーリル | 日本最大の図書館蔵書検索サイト等で探してみられてはいかがでしょう。本は怒らないし冷静だし、情報量も多くて、うちのブログなんかよりよっぽど有益ですよ。

※上記おすすめ書籍リストは今後随時更新していきます。(最終更新日:2018年1月19日)