ストレッチについて、多くの人が誤解している2つのこと

以下の問いの答えは何なのか、ちょっと考えてみてください。

  • Q1. 運動後のストレッチで翌日の筋肉痛を予防できるか?
  • Q2. ストレッチでケガを防げるか?

あたしは片方は正解できましたが、もう片方は間違ってました。以前ちょっと紹介した『良いトレーニング、無駄なトレーニング 科学が教える新常識』(アレックス・ハッチンソン、草思社)を読んで、初めて間違いだと気づいたんです。両方不正解な人も少なくなさそうなので、ちょっとくわしく説明してみます。

Q1. 運動後のストレッチで翌日の筋肉痛を予防できるか?

答えは以下。(前掲書p. 186より引用)


運動後のストレッチには翌日の筋肉痛を和らげる効果はない。
あたしはこれ、完璧にまちがって覚えてました。「学校の体育や、以前行っていたスポーツクラブでそう教わったから」というだけの理由で、ストレッチした方が筋肉痛が少なくなるもんだと思い込んでました。言われてみれば、すごく忙しい日に運動後のストレッチをさぼって(または忘れて)寝てしまっても、それで翌日目に見えて筋肉痛がひどくなってたことってなかったわ……!
この本によると、ストレッチが筋肉痛の予防になるというのは、「筋肉痛の原因は筋肉の痙攣による血流阻害である」という説にもとづく考え方だとのこと。しかしながら、1986年、アムステルダム自由大学の研究によって、この痙攣説そのものが否定されているのだそうです。
根拠が否定されてしまった以上、その根拠を前提として考え出された説が怪しいのは当然と言えば当然。2009年、ボート選手20人に激しい運動をさせ、運動後に静的ストレッチをしたグループと何もしなかったグループで比較した実験では、2つのグループの筋力、筋肉痛、クレアチンキナーゼ(筋肉の損傷で上昇する酵素)の血中濃度にはまったく差がないとわかったそうです。フットボール選手を対象にした実験でも、試合後にストレッチをさせたグループとさせなかったグループでは、筋肉痛の度合いに相違がなかったという結果が出ています。


こうした研究には共通項がみられます。コクラン共同計画(世界的に展開している、治療や予防に関する医療技術を評価するプロジェクト)が二五の研究について二○○八年に発表した見解では、ストレッチは運動後半日に起こる筋肉痛にはほとんど効果がなく、あったとしてもごくわずかである、という結果がどの研究を見ても「みごとに一致している」ことを示しています。
そんなわけで、筋肉痛を予防しようとストレッチに励んでも、あんまり意味はないみたい。柔軟性向上のためなら、もちろん意味はありますけどね。ほら、運動後なら体温が高くなってるから、伸ばしやすいし。

では、筋肉痛対策にはいったい何をやったらいいのか。この本によると、冷風呂やマッサージがいいみたいですよ。まず冷水浴は、「10度の水に5分以上浸かると筋肉痛の回復を促進する可能性がある」(p. 206)とのこと。マッサージの方は、「乳酸を押し流す効果はないが、筋肉痛の回復を早める可能性がある」(p. 211)と指摘されています。
あたしは冷たい風呂に5分以上浸かる根性はないので、運動後はストレッチポールやテニスボールでセルフマッサージすることにしました。だいたいこんな種目をやっています。


Q2. ストレッチでケガを防げるか?

答えはこう。(p. 175より引用)


ストレッチで身体の可動域は広がるが、ケガの発生率を低下させる効果は確認されていない。

これはベースボールマガジン社の『ストレッチ・バイブル』などでも簡単に言及されているので一応知ってました。以下、『良いトレーニング、無駄なトレーニング』pp. 174 - 175から引用。


柔軟性が高いほうがケガをしにくいという説には、いくつかの矛盾があります。筋肉が損傷するのは、身体を稼動域内で動かしながら大きな負荷をかけて筋肉を収縮させているときです。バレリーナやアイスホッケーのゴールキーパーでなければ、通常の可動域を超えて開脚しようとすることはありません。マギル大学のスポーツドクター、イアン・シュリアは次のように主張しています。「ケガは、身体を稼動域内で動かしている際に生じます。なぜ、可動域を広げることがケガの予防につながるのでしょうか?」

この問題を解明するために、何百もの研究がおこなわれています。疾病管理予防センターは二〇〇四年に三六一の研究を検証し、「ストレッチがすべてのケガの軽減に関係するわけではない」という結論を導きました。さらに同センターは、「運動によるケガを防止するためにストレッチがおこなわれていますが、科学的な根拠はなく、直感や、なんとなくそうしたほうがいいといった研究結果がもとになっている」と述べています。同様の調査は二〇〇八年にも実施されましたが、結論は同じでした。
というわけで、身体が固い人を「関節可動域を広げないとケガをするぞ!」と脅してやたらとストレッチさせるのは、あんまり科学的とは言えない模様。ただし、「効果が確認されていない」ということは、「効果がない」というのとは別物なので、そこは分けて考える必要があるとハッチンソンは書いています。アスリートが普段からやっているストレッチに強い愛着があるのであれば、それをやめさせるのに足るだけの根拠はないとのこと。もっとも、試合前の静的ストレッチはパワーやスピードを低下させることがわかっているので、少なくとも試合後にやった方がいいということは言えるそうです。

まとめ

  • 運動後のストレッチに翌日の筋肉痛を予防する効果はない。
  • ストレッチがケガ防止に役立つという説の科学的根拠は確認されていない。

参考書籍

良いトレーニング、無駄なトレーニング 科学が教える新常識良いトレーニング、無駄なトレーニング 科学が教える新常識
アレックス・ハッチンソン 児島修

草思社 2012-02-11
売り上げランキング : 34051

Amazonで詳しく見る
by G-Tools