アンケートの設問から見えた日経情報ストラテジーとITproの悲しい現実、「ダブルバレル質問のことをよく知らない」

日経情報ストラテジーとITproがおこなったというアンケートにもとづくこの記事、「深刻な状況」とか「衝撃の回答」とか何やら大騒ぎですね。しかし、この調査に使われた質問を見ると、眉に唾をつけざるを得ません。質問の全貌は、以下で見ることができます。

ひどすぎますよこれ。自由記述の第7問以外はすべてダブルバレル質問(ダブルバーレル質問)で、このようなアンケートで意義のある結論が導けるとは思えません。

ダブルバレル質問とは何か。以下、ブリタニカ国際大百科事典(電子辞書版)より引用。強調は引用者によります。


ダブルバレル質問(double-barreled question)
社会調査の質問紙法のなかで質問文が二つ以上の論点を含んでいるような質問の仕方をいう。たとえば「外国の侵略を防ぐためには,アメリカのMSA(相互安全保障)援助を受けて自衛力を強化し,国を守らなければならないという意見があります。あなたはこの意見に賛成ですか,反対ですか」という質問文の場合,独自で自衛力をもち国を守るという考え方と,MSA援助を受けて自衛力を強化し国を守るという2つの論点が含まれている。一質問一論点が正しい調査の質問の仕方で、このような質問文は用いてはならない。

上記の説明でわかりにくかったら、「小学校はもっと国語や算数の授業時間を増やすべきだと思いますか」みたいな質問を考えてみるといいかも。これだとたとえば「国語はもっと増やすべきだが、算数は現状のままでいい」と思っている人は、「はい」とも「いいえ」とも答えられないでしょう。このような質問で、「はい・いいえ・どちらでもない」のどれかにマルをつけさせて集計したところで、意味のある結果は得られません。この場合、質問をふたつに分けて、

  • 小学校はもっと国語の授業時間を増やすべきだと思いますか?(はい・いいえ・どちらでもない)
  • 小学校はもっと算数の授業時間を増やすべきだと思いますか?(はい・いいえ・どちらでもない)

のようにするのが正解。

では、ITproのウェブサイトに載ってる質問を、いくつか実際に見てみましょう。


Q1.同じ部門の社員同士であっても心に壁があり、会話や協力ができていない。同僚のことを、実はよく知らない

「心に壁があるかないか」、「会話ができているかいないか」「協力ができているかいないか」、「同僚のことをよく知っているかいないか」の4つの論点が含まれています。「同僚のことをよく知らず、会話はないが、こと仕事となるとあうんの呼吸で完璧な協力作業ができている」って人はどう答えたらいいんですか。


Q5.経営トップは「ソリューション提案力の強化」を掲げているが、そのために必要な人材育成策が整備されておらず、自身のスキル向上に不安を覚える

論点は、「経営トップがソリューション提案力の強化を掲げているか」、「人材育成策が整備されているか」、「自身のスキル向上に不安を覚えるか」の3つ。はい・いいえ・どちらでもないの3択だけでこれだけの論点に答えることは不可能。


Q6.そもそも会社が「目指す姿」が見えない。会社の存在意義や仕事のやりがいを考えることをあきらめ、会社と一定の距離を置き、目の前の仕事をこなす日々が続いている
論点は、「会社が目指す姿が見えるか」、「会社の存在意義について考えることをあきらめているか」、「仕事のやりがいについて考えることをあきらめているか」、「会社と一定の距離を置いているか」、「目の前の仕事をこなす日々か」の5つ。いったいどうしろと。

こんな意味のないアンケートを設計しておいて、その結果なるものから「IT業界の悲しい組織風土の現実」だの、「これほど深刻な状況だったとは──」などと悲憤慷慨してみせたところで、説得力はゼロですよ。質問調査ではダブルバレル質問を避けろというのは、大学のそれも学部生レベルで習うことなので、こんな集計結果に騙されるのはせいぜい高校生までだと思います。いや、中高生だって、気の利いた子なら「なんかこれ変」って気づくよねたいてい。「971人の回答から見えた(略)」という記事の末尾には、IT業界は「早急に組織風土改革に着手すべき」とあるのですが、改革にはまず正確な現状把握が必要なはずだし、それにはこんなずさんな調査してちゃいかんだろと思いました。