米地方紙、アンチゲイな苦情にも負けず、「歴史的な」同性婚記事を守る

米国ミシシッピ州の地方新聞が、地元初の同性同士の結婚式を取材し、「歴史的な」出来事として一面で報じました。案の定ホモフォビックな読者たちから苦情が殺到したのですが、新聞社主は一歩も譲らず、署名入りの記事で反論を展開しています。

詳細は以下。

この新聞の名前は「ローレル・リーダー・コール」といいます。同紙は2013年2月14日、ジェシカ・パウエルさんとクリスタル・クレイヴンさんというふたりの女性の結婚式を一面で大々的に報じました。記事の見出しは「歴史的な結婚式」。大きな写真も添えられています。

ヒューマン・ライツ・キャンペーンによると、ミシシッピ州では同性婚は法的に認められていないのだそうです。つまり、パウエルさんとクレイヴンさんの関係は、法律上は結婚とはみなされないわけ。しかしながら「ローレル・リーダー・コール」はこのふたりの式をジョーンズ州初の同性同士の結婚式として扱い、ふたりの談話も含めたていねいな記事を書いています。

もちろん、ホモフォビックな読者たちは黙っちゃいません。社主であるJim Cegielskiさんによると、同社には憎悪に満ちた電話や手紙、メール、Facebookメッセージなどが押し寄せ、さらに15人が購読をとりやめたとのこと。

そこでCegielskiさんは2月16日、新聞の半ページをまるまる使って"Doing Our Job"(直訳すると『わたしたちの仕事をするということ』)という署名記事を掲載しました。

この記事の内容がすばらしいんです。冷静で、公平で、ユーモアもあって。以下、特によかったところを訳します。

当社は、ジョーンズ郡の多数派は同性婚に賛成していないとよくわかっています。しかし、勇気あるきちんとした新聞というものは、ある記事を載せるかどうかを判断するのに、読んだ人々が怒るかどうかということを基準に置いたりしません。

We were well aware that the majority of people in Jones County are not in favor of gay marriage. However, any decent newspaper with a backbone can not base decisions on whether to cover a story based on whether the story will make people angry.


地域の住民を対象に地元で出している新聞の役割というのは、人々が取り乱すからという理由で何かが起こらなかったふりをしたり、無視したりすることではありません。わたしたちの仕事は、町で何が起こっているかという情報を読みものに盛り込み、あとは自分で判断してもらうことなのです。これは、まさしくわたしたちがあの結婚式の記事でやったことです。当社の記者は式のことを聞いて、出席し、来ていた人たちにインタビューをして、ニュース記事を書きました。もしあの式に抗議する人がやってきていたとしたら、まったく同じやり方でニュース記事にしていたでしょう……でも実際には、抗議する人はひとりもいませんでした。私たちはあれが良いことだとも悪いことだとも一度も書いていません、ただ単に、何が起こったかを人々に知らせることで、自分たちの仕事をしただけです。
The job of a community newspaper is not pretending something didn't take place or ignoring it because it will upset people. No, our job is to inform reads what is going on in our town and let them make their own judgments. That is exactly what we did with the wedding story. Our reporter heard about the wedding, attended it, interviewed some of the participants and wrote a news story. If there had been protestors at the wedding, we would have covered that the exact same way… but there weren't any. We never said it was a good thing or a bad thing, we simply did our job by telling people what took place.

新聞に苦情を言うために電話した人から、怒りに満ちた意見を大量にいただきました。苦情のほとんどは、「歴史的な結婚式」という見出しと、当社があの記事を一面に載せたことについてのようでした。「歴史的な結婚式」という見出しについて、わたしの答えは非常にシンプルです。あることが歴史的であるかどうかに、それが人が好むことであるかどうかは関係ありません。ホロコーストも、パールハーバーの爆撃も、ブラック・ソックス事件(訳注:米大リーグワールドシリーズで1919年に起こった八百長事件)も、すべて歴史的です。わたしが、繁華街でのふたりの女性の結婚式を、これらの大事件になぞらえているというわけではありませんよ(同性婚はもっと悪いことだという考えをはっきり言ってくる人もいましたけどね)。わたしはただ、読者が記事を気に入ろうと気に入るまいと、ジョーンズ郡初の同性同士の結婚式はやはり歴史的であると言っているのです。

I took the bulk of the irate phone calls from people who called the paper to complain. Most of the complaints seem to revolve around the headline, "Historic Wedding," and the fact that we chose to put the story on the front page. My answer to the "Historic Wedding" headline is pretty simple. You don't have to like something for it to be historic. The holocaust, bombing of Pearl Harbor and the Black Sox scandal are all historic. I'm in no way comparing the downtown wedding of two females to any of those events (even though some of you made it quite clear that you think gay marriage is much worse). I'm just saying that whether you liked the story or not, the first gay wedding to take place in Jones County is still historic.


わたしが受けた電話の多くでは、「うちの子どもたちにこれを読ませる必要はない」という趣旨のことを言われました。うわあ。当社は小児性虐待者や、殺人事件や、凶悪犯によっておこなわれたありとあらゆる非道で残酷な悪行を一面に載せていますが、それでも「うちの子どもたちにこれを読ませる必要はない」という電話は一度も来ていませんよ。断じて、一度も。にもかかわらず、ふたりの女性が結婚の誓いを交わしたという記事を載せると、子どもたちを心配する人々が押し寄せてくるのです。

Many of the calls I received had the caller stating something to the effect, "I don't need my children to read this." Ugh. We have stories about child molesters, murders and all kinds of vicious, barbaric acts of evil commited by heinous criminals on our front page and yet we never receive a call from anyone saying "I don't need my children reading this." Never. Ever. However, a story about two women exchanging marriage vows and we get swamped with people worried about children.

「報道の中立」って、こういうことを言うんじゃないでしょうか。想定読者層が喜びそうな文章ばかり載せたり、苦情が来たら無視するか隅っこに三行記事を出すかして終わりだったり、「何かあったら記者会見でエライ人に一斉に頭下げさけときゃいいだろ(鼻ほじほじ)」だったりする日本のメディアに爪の垢煎じて飲ませてやりたいです。あと、チェルシー・クリントンの同性婚CMを握りつぶしちゃったNBCにも。

あとさ、同性愛関係の話題になると、日本でも「子どもに見せるな」的なことを言い出す人ってけっこういると思うんですよ。そんなわけで、今後ネットでそういう人に話しかけられたら、このエントリにリンクを貼ることにします。うちの「LGBTニュース」カテゴリの記事は、自分のための備忘録であると同時に、そういうときのための下準備でもあったりするんです実は。