「イギリス英語こそ上品な/標準的な/正しい英語、だから日本人もイギリス英語を話すべき」説は眉唾(追記あり)

(2013年2月9日追記:動画が一部貼り間違ってたんで、直しました)

アメリカ英語は下品、なぜ日本人はもっと上品な/世界標準な/正しいイギリス英語を話さないのか」みたいなことをしたり顔で言う日本人ってのをたまに見かけます。そのたびに脳裏を「それはひょっとしてギャグで言ってるのか!?」のAAがよぎります。

だって「イギリス英語」ったって、いろいろあるじゃん? たとえばベッカムの英語なんて、訛りまくりのワーキングクラスの英語だよ。

スコットランド訛りってのもすごいよね。これは『River City』っていうドラマだけど、耳が慣れるまで何言ってるんだかわからなかったです。

こういうのだって「イギリス英語」の範疇。でも、あたしゃ別にこういう発音で話したくはないぜ。

ちなみにあたしはいろんな国の人から英語を習ったのですが、英国人の先生のうちひとりはオックスフォード出身で、正真正銘のRP(Received Pronunciation、容認発音)で話す人でした。こんな感じの、なめらかでおだやかな話し方です。

こんな風に話せるようになれるならなりたいな、とは思います。あたしゃ基本的にアメリカ英語(の、日本訛り)しか話せませんからね。

でもさ。
たとえばBBCを見てたって、別にRPで話す人ばかりじゃなくね? むしろ、そうじゃない人の方が多くね?

ためしに今容認発音 - Wikipediaを見たところ、このRPは「ロンドンで大学教育を受けた上流階級の発音」だとあります。外国人が学習する発音もこれなんだそうですが、


しかし1960年代以降イギリス各地で使用されている地域独自の発音の地位が上がり、BBCでもRP以外の発音が普通になるにしたがい、伝統的にRPを使用していた階級も若者の間ではその使用が失われる傾向にある。現在、RPの話者はイギリス人口の約2%程度であるとも言われる[5]。

とありますな。英国民ですら2%程度しか話者がいない話し方を、何もノンネイティブスピーカーが無理くり身につけるこたあねえやな。いや、身につけておけばあるいは教養や階級の高さをアピールするのに役立つのかもしれないけど、そこまでするコストとベネフィットが果たしてひきあうのかって話ですよ。それがもしひきあうってのなら、なぜ英語圏のネイティブスピーカーは全員完璧なRPを目指さないのか、とも言えますね。

あともうひとつ、(現在英国民が話している)イギリス英語こそが「元祖・英語」だとする説にもちょっと異を唱えたいです。というのは、これは知人の受け売りなんだけど、英語と米語が分岐した後、「古い英語の表現で、英国ではもうなくなってしまったものが、アメリカ英語の中には残っている」という現象が起こっているそうだから。方言周圏論 - Wikipediaのようなものですね。そんなわけで、ベオウルフぐらい古いものならともかく、たかだかBBC英語あたりを指してこれが本家だ、元祖だ、あとは亜流だ控えおろうみたいにふんぞり返るのは何か違うんじゃないかと思うです。

まとめると、

  • 「イギリス英語」という言い方は大雑把すぎる。仮に日本人が苦労してベッカムのアクセントを身につけても、何の得もなくね?
  • たとえ「(スタンダードな上流階級のアクセントである)RPで話せ」って言ってるつもりだとしても、ネイティブスピーカーですら2%程度しかいない話し方を目指すコストとベネフィットは釣り合うのか?
  • 実は英国以外の英語の中にこそ昔の英語が保存されていたりするのに、本家だ元祖だとエバるのは不毛じゃね?

ってことです。このへんまで突っ込んで論じていない「日本人はイギリス英語を話すべき」説は全部眉唾だと、あたしは勝手に思っています。