ロンドン交通局、アンチゲイな広告をさし止める


ロンドン交通局が、宗教団体が予約していた「元ゲイの人もいます! 慣れてください!」(‘Some People are Ex-Gay! Get Over it!’)というバス広告を、ロンドン市内のどの交通ネットワークでも使わないと発表したそうです。

詳細は以下。

前提としておさらいしておくと、この「元ゲイ」(Ex-Gay)というのは、同性愛を「治す」という触れ込みの、多くは宗教的なセラピーのことです。「回復療法」(reparative therapy)とも呼ばれます。こうしたセラピーによって「治った」と自称する人のことも、Ex-Gayと呼びます。しかしながら心理学や精神医学の専門家は、「このようなセラピーの科学的根拠は確認できず、むしろクライアントの抑うつや自殺などを引き起こす可能性がある」と警告しています。

次に、この宗教団体が広告に使おうとしていた「元ゲイの人もいます! 慣れてください!」(‘Some People are Ex-Gay! Get Over it!’)というフレーズについて。これはもともとLGBTの権利団体「ストーンウォール」がキャンペーンに使っている、「ゲイの人もいます。慣れてください!」(‘Some People are gay. Get Over it!’)というキャッチフレーズをパクって改変したものです。‘Get Over it'の部分は、「慣れてください」「受け入れてください」「乗り越えてください」などいろいろ訳せますが、だいたいのニュアンスとしては「たとえ望ましくないと思っていても、あきらめろ/乗り越えろ/慣れろ/嘆くのをやめろ」みたいな感じでしょうか。

話を元に戻して、ストーンウォールはこの4月じゅう、ロンドンのバスにこの「ゲイの人もいます。慣れてください!」という広告を大々的に出してたんですね。それをよく思わなかった「アングリカン・メインストリーム」(Anglican Mainstream)という宗教団体が、カウンター広告として「元ゲイの人もいます(略)」と載せようとしたというわけです。

Pinknews.comがこの動きを報じて以来、何千人もの人がtwitterやFacebookで反対の意を表明し、ロンドンのボリス・ジョンソン市長までが以下のように語ったそう。


「ロンドンは世界でもっとも寛容な都市のひとつであり、不寛容は認められない。同性愛者であることが、治る病気であるかのようにほのめかすのはあきらかに侮辱的であり、まさかそのような提案がわたしたちのバスに載せられてロンドンじゅう走り回るとは思わなかった」
“London is one of the most tolerant cities in the world and intolerant of intolerance. It is clearly offensive to suggest that being gay is an illness that someone recovers from and I am not prepared to have that suggestion driven around London on our buses.”

結局、ロンドン交通局はくだんの広告は載せないとtwitterで表明し、「この広告がロンドン交通局の、寛容ですべての人を受け入れるロンドンに対する義務を反映しているとは思いません」と述べたとのこと。やれやれ。

2010年のカリフォルニア州同性婚裁判では、このような「治療」を18ヵ月間受けさせられたゲイ男性が、「自殺寸前まで追い込まれた」と証言しています。不寛容であるばかりか、危険なんですよ、こういう「治療」は。そんなもんの広告を公共交通機関のどてっ腹につけて走らせるのは、いわば「糖尿病でも祈りの力でインシュリンがいらなくなります!」と主張する宗教団体(その手の科学的根拠ゼロの主張で1型糖尿病の女児が殺されちゃったという事件がありましたよね)の広告を載せてるのと大差ありません。実行に移される前に阻止されてよかったです。