マッスル・メモリーのメカニズム

ボディービル界では、ある程度長い筋トレ経験がある人は、多少休んでもトレーニング再開すればすぐに筋量が取り戻せるということが知られています。自分にも経験があるし、ジム仲間にもそういう人は多かったです。このように、あたかも筋が以前のトレーニング効果を憶えているかのような反応をみせることを、マッスル・メモリー(筋の記憶力)と呼びます。

このマッスル・メモリーの一端を担っているのはどうやら「トレーニングによる筋線維核数の増加」であるらしいです。以下、筋の記憶力:PART2 - Kentai Blog: 2010年12月アーカイブ(2010.12.14)より引用。


レーニングによる筋肥大は、筋線維の肥大と若干の筋線維の増殖によって起こりますが、主要因は筋線維の肥大です。
筋線維の肥大は、まず筋線維内でのタンパク質合成の上昇によって起こります。
しかし、筋線維の中にある核(筋線維核)には支配可能な「なわばり」といえる領域(核領域)があるため、ある一定の限度を超えて筋線維が肥大するためには、筋線維核の数を増やす必要があります。
このとき、新しい核の供給源となるのが、「筋サテライト細胞」という細胞です。
この細胞は、筋線維の素になる「幹細胞」で、筋線維の周囲に貼り付いています。
レーニングすると、この筋サテライト細胞が分裂・増殖し、筋線維に融合することで核数が増え、筋線維がさらに肥大するという仕組みです。

同エントリによると、「4週間トレーニング、3週間ディトレーニング(トレーニングを休止)というスケジュールで6ヶ月間筋トレを行ったグループ」と、「6ヶ月間筋トレを継続して行ったグループ」を比較した実験があるのだそうです。前者はディトレーニング中に筋力と筋サイズが低下するものの、トレーニングを再開すると急速な発達を見せ、最終的には6ヶ月続けてトレーニングしたグループに追いついてしまったとのこと。
東京大学大学院教授の石井直方氏は、こうした「筋の記憶」について、以下のように示唆しています。


筋には確かにトレーニング効果を「記憶する」メカニズムがあり、その一端は 筋線維核の増加だろうと考えられます。その「記憶」の長さは、マウスでは2ヶ月以上。寿命から類推すると、ヒトでは10年以上にわたる可能性があります。

なお、同教授の著書『究極のトレーニング 最新スポーツ生理学と効率的カラダづくり』(講談社)では、マッスル・メモリーの他の要因として「筋繊維数の増加」が挙げられています。上記エントリにもあるように、「トレーニングによる筋肥大は、筋線維の肥大と若干の筋線維の増殖によって起こる」もの。この若干ではあれど増えた筋繊維数が、ディトレーニング中に萎縮こそすれ数を維持している可能性があるのだそうです。この場合も筋サイズは元に戻しやすく、これもまたマッスル・メモリーの一環と考えられるとのこと。

そんなわけで、いったんしっかり筋トレして筋線維核なり筋繊維なりの数を増やしておけば、多少休んだ後でも早く筋を取り戻せるらしいです。ブランクができてもあわてず、「いい休養になった」ぐらいに思っておくのがいいかもしれません。すくなくとも3週間ディトレーニングしても大丈夫というのは、ヨガや自転車など他のスポーツにかまけてときどき筋トレがおろそかになりがちな自分には大きな朗報です。

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