「神がウイルスを追い出す」教会の非科学的アドバイスで英国のHIV感染者6人が死亡


英国で少なくとも6人のHIV感染者が、教会から薬物療法をやめるようにと説かれた後に死亡しているそうです。Sky Newsの調査によると、こうした教会では患者の顔に水をふりまいたり、怒鳴りつけて「悪魔を追い出し」たりすることで神が病気を癒すとしていたとのこと。

詳細は以下。

教会のこうした自称「治療」についてはBBCも調査を行っており、ロンドンで少なくとも3人の患者が教会から薬物治療を止められて死亡していると報告しています。Sky Newsの調査では、ロンドン、マンチェスターバーミンガムグラスゴーの教会が、信者に対して「神がウイルスを取り除くことができる」と説明しているとわかったそうです。また、ロンドンのサウスウォークにあるSynagogue Church of All Nations (SCOAN)では、Sky NewsのHIV陽性の覆面調査員3名が全員「治る」と説明され、前述のように水をかけられたり怒鳴られたりしたそうです。

牧師のひとりであるRachel Holmesは、SCOANは「100パーセントの成功」を誇ると語り、次のようにつけくわえたとか。


「もし嘔吐や下痢などの症状がしつこく続くようなら、それはウイルスが体から出ていくというしるしなのです」
“if symptoms such as vomiting or diarrhoea persist, it is actually a sign of the virus leaving the body”.

これって日本のインチキ宗教や民間療法が主張する「好転反応」と同じロジックじゃん!! ていうか、2005年に真光元(次世代ファーム研究所)が1型糖尿病の少女にインスリンを与えず死に至らしめた事件と同じでは。以下、やや日刊カルト新聞: 【まいんど】「好転反応」の呪縛、そして娘の死/真光元事件(2)・藤田庄市より引用してみます。


インスリンを打たねば生きてゆけない1型糖尿病という不治の病に冒された豊島桂子(当時12歳。仮名)と母親の美也子(55歳。仮名)は、絶望のなかで真光元(まこも)神社と教祖・堀洋八郎(67歳)の存在を自然療法師の幹部信者、山田和子(51歳。仮名)から布教され、その宗教言説と実践に没入してゆく。
(引用者中略)
7月15日。豊島母娘は岐阜県恵那市の「山の家」に入った。その日の夕食時、美也子は堀に、桂子が1型糖尿病であり、インスリンを持参しなかったことを告げた。堀は「よく分かりました。もう大丈夫です」と答えたという。さきの本宮は、堀が豊島母娘に「治療はもう始まっているのですよ」と言っていたのを聞いている。そして夕食後、堀は桂子の手を「パワーを送る」のだと一時間ほど握り続けた。教祖自らが為した宗教的治療行為の心理的影響の大きさを過小評価してはならない。
が、しかし。当然ながら桂子の状態はその夜からどんどん悪化した。にもかかわらず母親が先輩信者の店の仕事のために心配しながらも一時帰宅したのは、堀の「治療パワー」を信じたが故であった。加えて、桂子の具合の悪さについて、本宮たちスタッフの見立ては一致して、かの「好転反応」であった。事態の深刻さを見据える思考枠組みは、堀をはじめ全員から失われていた。
18日朝。桂子が寝息をたてていないことに気づいた本宮がびっくりして堀に報告。救急車を呼んだがすでに遅かった。医師が不審を抱き警察に連絡した。マスコミの知るところとなり、「次世紀ファーム研究所事件」として一時メディアを騒がせたのだった。
これとまったく同じだよ。寒気がするよ。対岸の火事なんかじゃ全然ないよ。
もちろん、英国のHIV/AIDS患者支援団体はこのような事態に仰天しているとのこと。「ナショナル・エイズ・トラスト」(National Aids Trust)のDeborah Jack最高責任者は、PinkNews.co.ukに対し、以下のように語っているそうです。


こうした宗教指導者たちが人を誤った方向に導くのは、信頼と信仰との恐ろしい悪用です。
「もしHIV陽性の人が薬物療法を中止したら、健康上の重大な危機をむかえるだけでなく、他の人に感染させてしまう可能性も増大するのです」
“It is a terrible abuse of trust and faith for these religious leaders to be misleading individuals and this is a serious issue which needs to be tackled.
“If a person with HIV stops taking their medication, there are not only grave health risks but it also increases the likelihood of passing the infection on to others”.

PinkNewsのコメント欄に、鋭い意見がありました。


HIVは治療可能な病気だ。クオリティ・オブ・ライフを向上させて余命を伸ばす薬が使えるんだから。
それなのに一体全体どうしてこの低脳カルト信者どもは、こういう薬が彼らの「神」からの贈り物だと思わないんだ?
HIV is a treatable condition. There is medication available which can offer a good quality of life with a good life expectancy.
So why on EARTH would these moronic cultists not regard this medecine as a gift from their ‘god’.

この有名なジョークを思い出させますね。(いろんなバージョンがあるようですが、とりあえずDr. John PolkinghorneがJesus Creedで語ったものを訳してみます)


洪水に遭った男がいた。家の2階に上がり、窓から外を見ると、梯子を持った男がやってきて、これで降りろ、家から連れだしてやるという。男は、いや、いや、いや、神がわたしを助けてくださるから、それは必要ないよという。それで梯子の男は言ってしまい、水はどんどん上がり続ける。ボートに乗った人がやってきて、飛び乗れ、連れて行ってやるという。男は、いや、いや、いや、神がわたしを助けてくださるという。男はとうとう屋根の上に登るはめになり、事態はますます絶望的に。そこにヘリコプターがきて頭上をホバリングするが……いや、いや、いや、それはいらないよ。神がわたしを助けてくださるから。
男は溺れ死ぬ。
神のみもとで、男はたずねる。どうして私を助けてくださらなかったのですか?
神、答えていわく、わたしは梯子を送り、ボートを送り、ヘリコプターを送った。これ以上何が望みだ?

There is a man who is caught by a flood, and he has to go up to what you would call the second floor of his house, and he is looking out of a window and a man comes along with a ladder and says you climb down and I’ll carry you from your house. And he says no, no, no, God will look after me, I don’t need that. So the man goes away and the waters continue to rise. Somebody comes in a boat and says come on jump in the boat, I’ll take you away. The man says no, no, no, God will look after me. Eventually he’s up on the roof things are getting so desperate and a helicopter hovers overhead … no, no, no, I don’t need that, God will look after me.
He drowns.
When he appears before the Lord he says Lord, why didn’t you look after me?
God says to him, I sent you a ladder, I sent you a boat, I sent you a helicopter. What more do you want?

カルト宗教の信者のみなさんがひとりで溺れ死ぬのは勝手だけど、人サマの梯子や、ボートや、ヘリコプターを取り上げてドヤ顔すんのはやめてほしいと思います。病人から薬と医療ケアを取り上げるな、それは患者本人だけでなく、社会全体にとっても大迷惑だから。

単語・語句など

単語・語句 意味
evangelical 福音主義[教会]の
grave 危険をはらんだ、ゆゆしい、容易ならぬ、重大な、相当の