『SPEED』(金城一紀、角川書店)感想

SPEED (角川文庫)SPEED (角川文庫)
金城 一紀

角川書店(角川グループパブリッシング) 2011-06-23
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「ザ・ゾンビーズ」シリーズ第3作。今回は、トラブルに巻き込まれた女子高生「岡本佳奈子」をゾンビーズが助けるという内容で、佳奈子を主人公とする1人称小説になっています。
そこそこ面白いんですが、読後感は微妙。どうも『レヴォリューションNo.3』『フライ、ダディ、フライ』『SPEED』とシリーズが進むにつれ、徐々にお話のパワーが落ちているような気が。風変わりでタフなオチコボレ男子高校生たちの魅力を描き切った第1作はすばらしかったんですが、第2作はおっさん視点に寄ろうとしてやや失速し、本作は「女のコ視点のジュブナイル」化しようとしてさらに失速してしまっている気がします。
何より残念だったのが、主人公・佳奈子のキャラ造形にリアル感が薄いこと。あれだけ頭の回転が速くて知識も広いのに、男が「こんなことも知らないのか」とドヤ顔をするだけの余地が都合良く残されているところにもやもやします。古い語彙をよく知っていて、ということは本もずいぶん読んでいるはずで、「安っぽいホラー映画(p. 169)も見ているらしいのに、なぜかスケキヨはまっったく知らないなんてところは、特に腑に落ちませんでした。また、同じ高校生キャラなのに、『レヴォリューションNo.3』の立ちションの場面に顕著だったような生身っぽさがまったく感じられないところも今ひとつ。少女を主人公にしたというより、男性の優越感&ピグマリオンコンプレックスの受け皿たるべきお人形を主役の座に据えたといったおもむきで、共感しづらいものがありました。
もうひとつ残念なのが、クライマックスの描き方。社会のシステムに依って立つ敵が長広舌で自己正当化を試み、主人公たちに撃破されるというパターンは、既に「異教徒たちの踊り」(『レヴォリューションNo.3』収録)で使用済でしょう。なので、既視感が先に立ってしまって、あまりカタルシスが感じられませんでした。単体としてこの小説を読んだのなら、また違った感想も出てくるかもですが。
とはいえ、


もしおまえがシステムとかカラクリとかに疑問を感じたり窮屈に思うようだったら、きちんと怒り続けるべきなんだよ。こんなもんか、なんて思わないでな」
という(p. 176)作品全体の(または、シリーズ全体の)テーマは力強いし、主人公の名乗りの変化(p. 257)は痛快だったし(まさかあそこであの人の名前を持ってくるとは! かっこよすぎ!)、映画『リトル・ダンサー』を使った喩え(pp. 201-202)も胸に響くし、広がりのあるエンディングも爽やかで、トータルすると「楽しく読めるジュブナイル小説」ではあるんですけどね。あ、あと山下は今回も最高でした。大好きだ山下。