「Yuriはレズビアン・アイデンティティー無きレズビアン・コンテンツ」:米国の出版関係者と同性愛者の、「Yaoi」「Yuri」コミックについてのパネルディスカッションが面白い

ニューヨークで先日開催された「ニューヨーク・アニメフェスティバル2010」で、米国の出版関係者と同性愛者が「Yaoi」「Yuri」コミックなどについてパネルディスカッションを行ったそうです。また、同時に参加パネリストによるGBLTQ読者向けの推薦20作品リストも発表されたとのこと。

ニュースの概要は以下。

このhon.jp DayWatchの記事によると、


米About.comの記事によると、ニューヨーク市内で先週開催された「NY Anime Festival 2010」展示会において、米国の出版関係者と同性愛者たちが読者層を増やしつつある「YAOI」「YURI」「BARA」コミックなどについてパネルディスカッションを開催し、盛況だったとのこと。
YAOI(ボーイズラブ)やYURI(百合)作品は同性愛のキャラクターが多く登場する作品ジャンル。もともと日本国内では女性向けとして販売されているものが大半だが、米国でもそうなのか、さまざまな議論がなされた模様。同時に、参加パネリストによる推薦20作品リストも発表された。

とのことですが、残念ながらパネルディスカッションの詳しい内容までは記されていません。で、ためしに実際のディスカッション内容が載っているGay for You? Yaoi and Yuri Manga for GBLTQ Readers Panel at New York Anime Festival 2010 – October 9, 2010 – Yaoi and Yuri Manga Panelを見てみたら、これが面白くて面白くて。それなりの作品数を読んでいる日本の百合オタとして、また日本の同性愛者のひとりとして、うなずける意見も首をひねってしまう意見もあり、たいへん興味深く読みました。

なるほど! と膝を打ってしまったのは、Yuricon開催者であり自身もレズビアンなエリカ・フリードマンさんのこちらのお言葉。大雑把に訳してみると、こんな感じでしょうか。


エリカ・フリードマン「私は百合を、レズビアンアイデンティティー無きレズビアン・コンテンツとみなしています。典型的な例では、ふたりの少女が見つめ合って、キスをして、そこで物語が終わってしまうんです! コンテクストやレズビアンアイデンティティのない14歳の少女たちというわけです。
私はずっと、女性キャラクタが「私はいつも女の人に言い寄ってばかりいます」と言うような話を探しています。私にとって百合とは、レズビアンアイデンティティーの欠如によってアイデンティファイされるものです。
だんだんjosei yuri*1物語をもっとたくさん見るようになってくると、中には編集者に「大人のレズビアンの話がやりたい」と言いに行く作家がいたりするんですが、出版社は「ダメ、ダメ!」と言うんです。そこに大きな問題があります。
Erica Friedman: I identify yuri as lesbian content without lesbian identity. You'll typically have two girls looking at each other, they kiss, and then end of story! There are no lesbians in that story. There are two 14-year old girls who have no context, or lesbian identity.
I'm constantly searching for stories where a woman says "I'm always hitting on women." Yuri to me is identified by the lack of lesbian identity.
You're starting to see more josei yuri stories out there, slowly. There are artists out there who are going to their editors saying "I want to do stories about adult lesbians, and the publishers say "No, no!" So there's a big issue there.

そう言えば日本の百合ものって、女同士で恋をしたりデートしたりキスしたり、場合によってはセックスまでしていても、そこに「レズビアン」という概念はめったに持ち込まれないんですよね。むしろ自分がレズビアンだという発想すらないキャラクタがほとんどなんじゃないかしら。あたしは『プリティ・タフ』のなりりんが「うち レズビアンなんやー!」と言い切る場面が大好きなのですが、それは結局、そこまではっきりしたレズビアンアイデンティティーを持っているキャラというのがめったにいない(ゼロではないにしても)からだと思い至りました。だからこそ、なりりんのあの台詞の思い切りのよさに感動するわけで。今さらながらそのことに気づかされ、目からウロコが落ちる思いでした。

ちなみにエリカさんのこの発言は、YaoiやYuriにおけるファンタジーVSリアリズムについてのディスカッション内で出てきたもの。リアリティーに関しては、エリカさんがレズビアンキャラが登場する漫画『羣青』を「おそろしく機能不全なファンタジーだが、私の体中はどこもかしこもこの作品への愛で一杯」と説明し、「リアリティー? リアリティーって何? 知らないわ」と語るくだりがすごく面白かったです。アゴが胸にめりこむぐらい同意しちゃったわ、もう。
ここ以外でもとにかく面白いパネルディスカッションなので、やおい/BL好きまたは百合好きなら読んで損なしだと思います。英語の勉強っていうのは、こういう時のためにしとくもんなんだよ!

おまけ

このパネルディスカッションの参加パネリストによる推薦20作品リストはこちら。

百合ものは比較的点数が少ないのですが、『はやて×ブレード』『いおの様ファナティクス』『ストロベリー・パニック!』などが紹介されています。

*1:訳注:漫画をshonen(少年向け)、shojo(少女向け)、josei(大人の女性向け)、seinen(大人の男性向け)の4種に分類した上での、josei(大人の女性向け)ジャンルに属する百合漫画の意