『エアーズ家の没落(上・下)』(サラ・ウォーターズ[著]/中村有希[訳]、創元社)感想
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緻密で陰鬱な没落劇
「サンデー・タイムズ」の、サラ・ウォーターズのインタビューが面白い - みやきち日記でも触れた新作"The Little Stranger"の邦訳です。イギリスの領主一家・エアーズ家が不幸な「事故」の数々を経て崩壊していくさまを描いた力作で、緻密で重厚な描写力がすばらしかったです。ただし、『半身』や『茨の城』とは違い、この作品には絵に描いたようなどんでん返しとか、わかりやすい謎解きとかは存在しません。解説にもあるように、スティーブン・キング的なエンタテインメント小説ではあるのですが、最後の最後までこの小説はわかりやすい「答え」を提示しません。あとは自分で考えてね、という意地悪さを楽しめる人でないと、もやもやするかも。
この小説でもっとも面白いのは、陰鬱きわまりないハンドレッズ館の情景描写と、どこかグロテスクな人物造形です。あとは、歴史小説とサイコ・スリラーとの組み合わせの巧みさ。どこまでもみっしりと描き込まれた作品だけに、読むのには相当時間がかかりますが、それを越えて読む価値ありだと思います。レズビアンキャラが出て来なかったことでウォーターズを裏切り者扱いした人たちは、ひょっとしたら単に「こんなに長時間かけて読んだのに……!」ってことで忍耐の糸が切れたのかも、とちょっと思ったりしました。

