「同性カップルは異性カップルよりパートナー間暴力が多い」香港の研究で明らかに

香港中文大学の研究で、「同性カップルでは、パートナーから肉体的な危害を受けたことがあると答える人は異性カップルの4倍」という結果が得られたというニュース。

この研究のタイトルは「香港における、親密な同性パートナーの暴力」(‘Same-sex Intimate Partner Violence in Hong Kong’ )。異性パートナーからの暴力をテーマに2005年に香港で行われた研究と同じ測定法を用いて、同性カップル間の暴力について調べたものです。具体的には、加害者・被害者の両面の立場からの心理的攻撃・肉体的攻撃・セックスの強制・怪我などについて、匿名の398名から集めた回答を分析したとのこと。今回の調査で得られた結果を、2005年の異性愛者対象の研究と比較したところ、

  • 異性愛者の9.6パーセントがパートナーから肉体的暴力をふるわれたことがあるのに対し、同性愛者では38.9パーセント
  • 異性愛者の59.2パーセントがパートナーから精神的暴力をふるわれたことがあるのに対し、同性愛者では74.6パーセント

と判明したとのことです。

以下、同性カップル間の暴力について、もう少し詳しい数字を引用してみます。


全回答者のうちおよそ13パーセントが、調査された4種の虐待の全てを経験していることがわかった。肉体的暴力の数字は衝撃的である:回答者の39.8%が肉体的暴力をふるった経験があり、うち19.8%は激しい暴力である。回答者の38.9%は肉体的暴力の被害者となったことがあり、うち20.9%が激しい暴力による被害である。
Nearly 13% of all respondents were found to have suffered all four forms of the abuse investigated. The figures for physical assault were shocking: 39.8% of respondents stated that they had perpetrated assault, 19.8% severely. 38.9% of respondents had been victims of physical assault, 20.9% of severe assaults.

百合好き/やおい好きの皆様の一部がお好きな、「同性同士だから、よりいっそうわかり合えるの……!」みたいな幻想を身も蓋もなく打ち砕く結果ですね。ちなみにこの研究では、こうした暴力についてはゲイでもレズビアンでも「ほとんど同一」とされているようです。


この研究における他の驚くべき発見は、男性同士のカップルと女性同士のカップルでほとんど同一の結果が得られたということだ。異なっていたのはわずか2項目である:セックスの強制が起こるのは男性の方が多く(男性22.3%に対し女性11.9%)、自傷行為をすると言って脅すのは女性の方が多かった(女性14.2%に対し男性2.5%)。それ以外では、虐待はどちらの性別でも同様にひどいことが判明した。
One other surprising finding of the study was that male and female same-sex couples produced almost identical ratings. Only two items differed: the incidence of forced sex was higher for men (22.3% to 11.9%) and the incidence of threatening to self harm was higher for women (14.2% to 2.5%). Otherwise, abuse was found to be equally as bad in both sexes.

個人的には、こうした結果が出るのは無理もないことだと思います。というのは、特にクローゼットな同性カップルだと、性的指向を知られることを恐れて、トラブルがあっても周囲に愚痴をこぼしたり相談したりできない場合が少なくないと思うから。いざ暴力が起こったとき、警察やシェルターに助けを求めるにしても、まず自分が同性愛者であることから説明しなければならないという心理的負担が同性愛者にはあります。さらに、説明したところで、そこで二次被害(差別とか偏見とかアウティングとか)に遭う可能性もあります。また、そもそも相談機関の側が異性間の暴力しか想定していないというケースもあり、いろいろとハードルが高いと思うんです。で、助けが求めにくい分、異性カップルよりも暴力に歯止めがかかりづらいんじゃないでしょうか。なお、今回の調査では、以下のような傾向が見られたとのことです。


自分を守るために実際に助けを求めたことがある人の数はひどく少ない:助けを求めて適切なNGOに行ったことがある人はわずか1.6%、警察の力を借りたことがある人は2.2%、ソーシャルワーカーやカウンセラー、精神分析医の助力を求めたことがある人はたったの9.9%である。頼みの綱は自分たちの性的指向を知っている友人で、被害者の約60%が、そうした友人の助けを求めたことがある。
the figures for those who had actually sought help to protect them were correspondingly low: only 1.6% had gone to appropriate NGOs for assistance, 2.2% had sought the help of the police, and only 9.9% had gone to social workers, counsellors or psychologists for aid. Friends who knew their sexual orientation were the mainstay; around 60% of victims had sought help from those they knew.

性別なんてしょせん社会的に割り当てられた「役割」にすぎません。たまたま同じ役割が振られているからって、それだけで個人と個人の関係がうまくいくわけはないんですよね(異性愛者だって、たとえばたまたま会社員同士のカップルだからと言って『同じ会社員同士だから、何もかもわかり合えるの……!』とはならないでしょう?)。ましてや同性愛者の場合、むしろ同性愛に付与されたスティグマが足かせとなって、より関係が閉塞してしまいやすいという面があるような気がします。もちろん、住んでいる場所や属しているコミュニティによって、また違いはあるのでしょうけれども。

単語・語句など

単語・語句 意味
Chinese University of Hong Kong 香港中文大学
rigorous 厳密な、精密な、正確な、的確な、非常に厳しい、苛烈な、過酷な
whilist = while
coercion 強制
correspondingly 厳しく、激しく、簡素に、ひどく、すごく、容赦なく
identical まったく一致した、あらゆる点で等しい
incidence 発生(率)