アメリカの反ゲイ団体、嘘だらけの不気味なアンチ同性婚CMを作成(追記3件あり)

いやはやこれはひどいアメリカのアンチゲイ団体National Organization for Marriage(NOM)が2009年4月8日に発表したところによると、同団体は同性婚に反対するこんな不気味なCMをCNNやらFox Newsやらで流す予定だそうよ。

こんな暗い画面でのっけから「嵐が威力を増しつつある」「雲が黒い」「怖い」「私の自由が取り上げられてしまう」などなど、お電波満載なところがまずすごいです(いったい何の自由が取り上げられるっていうんだろ。同性愛者を迫害する自由?)。でも、一番笑えるのは、その後でクローズアップされる3人のキャラの台詞。あまりにもツッコミどころ満載なんですよ、これ。冒頭でリンクした記事によるツッコミがたいへん面白かったので、台詞の訳と共に要約文を載せてみます。

ケース1:「カリフォルニアの医師」

CMキャラの台詞


“I’m a California doctor who must choose between my faith and my job.”
「私は、信仰か仕事のどちらかを選ばねばならないカリフォルニアの医師です」

ツッコミ(要約)


この台詞が指し示しているのは、去年カリフォルニア最高裁が出した「人工授精を行う医師は、サービスを提供する相手をえり好みしてはならない」という判決。同性婚とは何の関係もない。おまけに、もしこの判決が逆だったら、医師は「宗教的信念に反するから」という理由を持ち出せばLGBTへのどんな医療サービスも(つまり、病気や怪我の治療も)断れることになってしまう。

ケース2:「教会グループの一員」

CMキャラの台詞


“I’m part of a NJ church group punished by the government because we can’t support same-sex marriage.”
「私は、同性婚を支持できないという理由で政府から処罰されたニュージャージーの教会グループの一員です」

ツッコミ(要約)


この「教会グループ」とはOcean Grove Camp Meeting Association (OGCMA)のこと。この団体は宗教的なものではあるが、教会ではない。OGCMAは建物を公共の用に役立てる(使いたい人に貸し出す)代わりに免税措置を得ていたが、2007年3月にレズビアンカップルのシビル・ユニオン式のための貸し出しを拒否したため、州の公民権局に訴えられ、免税措置を失っている。
ちなみにニュージャージー州は、別にこの団体の同性愛に対する信念を問題にしたわけではない。州は単に、「公共のための設備はすべての人々に対して開かれていなければならない」と判断しただけ。

ケース3:「困惑する親」

CMキャラの台詞


“I’m a Massachusetts parent helplessly watching public schools teach my son that gay marriage is OK.”
私はマサチューセッツ在住の親で、公立学校が息子に同性婚は良いことだと教えるのをなすすべもなく見守っています。

ツッコミ(要約)


これは多様な家族像を教える本を生徒達に配った学校を訴えたDavid Parker氏のこと。本の中には同性カップルの親についても書かれていた。Parker氏は学校区に、「自分の宗教的信念に合うよう、同性カップルの子育てや、同性愛者の子供についてはカリキュラムから除外しろ」と要求。しかし、学校には実際にゲイやレズビアンの子供がいるのに、その親を教師が無視するわけにはいかない。Parker氏は連邦裁判所に訴えたが敗訴し、最高裁は上告を棄却した。ちなみに連邦裁判所の判決はこんな。


公立学校には、宗教上の理由で不快感を感じる可能性のある考えから個々の生徒を守る義務はない。特に、学校が生徒にそうした考えに賛同しろと強要せず、また、そうした考えについての討論への参加さえも押しつけていない場合には、そのような義務はない。

なお、この学校は別に「同性婚は良いことだ」とは教えていない。単に、世の中には同性婚というものがあり、そうした家庭の子供たちも学校に来ていて、同性婚を理由にそういう子たちに意地悪をしてはいけないと教えていただけ。

みやきち感想

よかった、「悩める医師」や「処罰された教会のメンバー」や「困惑する親」はいなかったんだ! このCMに登場するのは、

  • 同性婚と関係ない話題を持ち出し、LGBTへの医療サービスを拒否したくてたまらない人
  • 「公共のため」という名目で免税を受けておきながら、LGBTを「公共」の枠組みから排除したくてたまらない人
  • ゲイペアレントの子供を無視し、彼らが学校で他の子供たちにいじめられても気にもしない人

だけよ!
……ていうかさ、よくこれだけ自分たちの狭量さをさらけ出した広告作るわよね。いくら同性婚OKの州が増えてきて焦っているにしても、ここまで強引なこじつけでひたすら被害者ぶってみせて、それで共感を得られると思ってるところが怖いわ。LGBTが戦ってる相手はここまでお脳が気の毒な方々だったのかと、なんか今、脱力感でいっぱいです。

おまけ

早くもこのCMのパロディーが作られてYoutubeにアップされてます。わはは。


(※14:30追記:このパロディーに使われている曲"It's Raining Men"の歌詞はこちら。→Geri Halliwell - It's Raining Men Lyrics - It's Raining Men - Lyrics On Demand

おまけ2(17:48追記)

こちらは元CMの嘘八百に冷静にツッコミを入れるタイプのパロディー。

2011年2月7日追記

CM動画の日本語字幕付きバージョンを発見したので、貼っておきます。

単語・語句など

単語・語句 意味
no-brainer (口語)たやすくできる仕事、簡単なこと、楽勝事、ちょろいこと
helplessly どうしようもなく、力なく、頼るものなく、困惑して、頼りなく
pick and choose えり好みする
auditorium (教会、劇場、学校、公会堂などの)会衆席、聴衆席、(学校の)講堂、公会堂
pavilion 分館、別棟
exempt (人・物から)(義務・責任などを)免除する
property tax 財産税
tax exemption 免税、非課税
provision 規定、条項、条件
accommodation (公衆のための)便宜、(生活・労働・滞在の)場、収容[宿泊]設備
reenact 再び制定する、再び演ずる、再演する、(以前のできごと・事件を)再現する
complaint 民事訴訟手続きで)訴状、原告の最初の訴答[申し立て]、(刑事法で)告訴(状)
division (官庁・会社などの)部門、部局、課、事業部
in exchange for... ...と交換に、...の代わりに
spoof パロディー