劇団四季の『マンマ・ミーア!』、すばらしかったです

いやー、良かった! 拍手しすぎて手が痛くなりました。映画より舞台の方がずっとずっとずーーーーっといいです。『マンマ・ミーア!』ってこういう作品だったのね、そりゃあロングランにもなるわ、と深く納得しました。

簡素だけど雄弁な舞台装置、実際の出来事と心情風景とをきちんと描き分ける演出、スピーディでテンポのよい話運びなどが実にうまく効いていて、メリル・ストリープ版で感じた違和感がぜんぜんないんですよ劇団四季版には。何と言っても「歌」の雄弁さが違う。映画の方だと、リアリズムとミュージカル部分の切り分けがあんまりできていないというか、「何で今ここで歌い出すの?」というひっかかりが常につきまとっていて歌に没頭できなかったんですよ。ところが舞台の方だと、歌が始まると「待ってました!」って感じで素直にノレるんですよね。コンサートでMCの後、歌が始まっても「なんでここで歌い出すの?」と思わないのと一緒で、むしろ歌ってくれて嬉しい楽しい、って気持ちにしかならない。この違いは大きいわー。

たとえば舞台版の方では、表題曲の"Mamma Mia!"は完全にドナの心象風景として描かれていると思うんですよ。突然再開した3人のパパ候補たちがストップモーションで動きを止めている間、照明はドナだけを照らし出し、しかも妙にセンシュアルな赤い色が使われています。その状態でドナが、よみがえる官能と恋に半ば腰砕けになりながら途方にくれつつ熱唱するのが"Mamma Mia!"。これは違和感ないですよほんと。むしろ、コミカルで可愛くて、ドナへの共感がぐっと高まるシークエンスになっていると思います。

ところが映画版だと、特に照明で変化をつけるわけでもなく、メリル・ストリープは自然光(に見える光)のもと山羊小屋の中を一生懸命覗いたり、屋根によじ登っておろおろしたり、あまつさえそれを人に見られたりしながら歌っています。3人のパパ候補も、小屋の中でフツーに喋ったり動いたりしているまま。これだと心象風景じゃなくて、現実の時間の流れの中で(リアルな目撃者までいますしね)エキサイトして熱唱してる謎のオバサンという意味合いが強くなってしまうと思うんです。あたしが映画版で「『ものすごいテンションでこちらににじり寄るメリル・ストリープのドアップ』に正直びび」ってしまったのは、たぶん、そのへんが原因かと。

他に思ったのはこんなこと。

  • 舞台版だと、ハリーのゲイネスが映画よりはっきり表現されていて嬉しかったです。
    • 台詞にしっかりそういう表現があるんですよね。なんで映画だと削られちゃったのかしら。R15とかにしないため?
  • ターニャの"Does Your Mother Know"がかっこよかった。
    • オリジナル・ロンドン・キャスト版CD付属のDVDなんかを見る限り、あの動きってアンソニー・ヴァン・ラーストの振り付けそのままなんですね(ていうか、舞台版はどこの国でもオリジナルの演出&振り付けに忠実みたい)。映画の方だと、ターニャがペッパーにまたがって腰を振る動きとかが完全に削られちゃってるのが残念。これも、R15とかにしないため?
  • キャストの皆様の歌唱力にゾクゾクしました。
    • 主役だから当たり前と言えば当たり前なんだけど、ドナの人の歌、すごかったー! こちらの胸にダイレクトに響いてくる感じ。素晴らしい声量と美しい声質に加え、"I Do, I Do, I Do, I Do, I Do"で歌い出すところの可愛らしさなんかもステキでした。
    • サムの人の歌声もとてもよかったです。ドナとサムの声が完璧に調和し響き合う" S.O.S."を聴いて初めて、「この場面ってこういう意味だったのか」と腑に落ちました。テーマにかかわる大事なところなんだから、ピアース・ブロズナンとかに無理やり歌わせとく場合じゃないですよもう。
  • ほとんど歌ばっかりでつないでいくのに、登場人物の心の動きに違和感がなくて感動。
    • 落ち込んでいたドナが"Chiquitita"や"Dancin Queen"で元気になっていくところとかね。テンポがきいてて展開速くて、すごく共感できる感じ。
  • 歌詞が日本語なのも、むしろわかりやすくてナイス。
    • ロージーの"Take A Chance On Me"の、「あたし、フリー」なんてところ、楽しかったなー。
  • モブが足ひれつけて踊るシーンの意味がやっとわかりました。
    • 桟橋(映画版)で踊る必要ゼロじゃん! 中庭(舞台版)でいいじゃん!
  • "Winner Takes It All"の場面の意味もやっとわかりました。
    • 崖で歌う必要ないじゃん! 何やってんのよメリル!
  • ギリシャの村人ABCD」みたいな皆さんが突然画面に登場してくる意味もやっとわかりました。
    • 舞台だと、村人の皆さんはコーラス部隊であると同時にセットを動かす役目も担ってるんですね。"Money, Money, Money"のところなど、メリハリのきいた歌と動きがとてもよかったです。

というわけでどう考えても映画より舞台の方が圧倒的に面白いわ、「マンマ・ミーア!」。終わっちゃう前に観に行けてよかったわ。当分、ロンドン・キャストのCD↓聞いたり付属のDVD(いろんな国の『マンマ・ミーア!』の映像が収録されてて楽しいです)観たりして反芻しようと思います。

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