ジェシカ法(Proposition 83)について思うこと

※性虐待に関する話題を含みます。フラッシュバック注意。

こちらの記事で知ったんですが、カリフォルニア州ジェシカ法と呼ばれる性犯罪関連の法案がほぼ通過確定なんだそうです。この法の内容をごくごく大雑把に言うと、「性犯罪者として登録された者は、学校や公園から2000フィート以内に住んではならない」「学校の近くを通ることも許されない」「子どもに対する性犯罪を犯した者は生涯GPSで居場所を追跡する」といったもので、既に70パーセントぐらいの支持を集めているみたい。

しかしね。「実際の統計では、見知らぬ他人は子どもに性虐待を行う犯罪者の8.5パーセントにすぎない」*1のであって、むしろ子どもに対する性虐待の多くは家庭の中で起きている*2んですよ。「変な人」や「悪い人」を学校や公園から遠ざけておけば大丈夫というのはただの幻想です。こんな見当はずれの法で服役後の人を痛めつけて「これで安心」と油断しきってしまったら、家庭内でのうのうと子どもの性を搾取している小児性愛者の思うツボじゃないの? なにしろ彼らは学校に近づく必要すらないからね! 家庭ぐるみで口をつぐんでりゃ、逮捕・服役もありえないしね!

あと、あたしが一番恐れているのは、ジェシカ法がかえって小児性愛者が子どもの口を封じるための絶好の口実になってしまうんじゃないかということです。もともと性虐待者って、「誰にも言ってはいけないよ。言ったら、お前のせいで家族がバラバラになってしまうよ」とか言って被害者を脅すのが定番なのに、その脅迫にわざわざ法的根拠を与えてどうする? ジェシカ法を盾にとって、「口外したらお父さんだけ遠くに住まなきゃいけなくなって、お母さんが悲しむぞ」(学校や公園から2000フィート以内に住んでいた場合、本当に引っ越さなきゃいけないし)とか、「仕事ができなくなって家族が生活できなくなるよ」(会社が学校の近くだったり、職種が運転手だったりしたら本当に働けなくなるし)とか、「GPS装置をつけられたら、どこに行っても周りの人に何があったかバレて、お前も軽蔑されるよ」とかいうたぐいの脅迫がいくらでもできちゃうじゃないですか。「法律でそう決まってるんだ」と強調されたら、幼い子どもなんて余計に震え上がっちゃうっつーのよ。
まとめると、

  • ジェシカ法を成立させても、子どもに対する性犯罪はなくならない(だってもともとそういった犯罪の大半が学校の近くじゃなく、家庭内で起きてるんだから)
  • ジェシカ法はむしろ家庭内で行われている性犯罪を水面下に隠してしまう害の方が大きい

……というのがあたしの考えです*3。叩きやすい相手だけを「悪い人」に仕立ててリンチにかけてたって、何の解決にもならないよ。それより、本当に苦しんでいる被害者を救うために何ができるか考えることの方が先決でしょ……と思うんだけど、このまま行くとペド大国日本も大喜びでカリフォルニア州の真似を始めそうで嫌だなあ。何かというと厳罰化で「どこか遠くにいる悪い人」を威嚇さえしておけば全て解決すると思ってる嫌な国だからなあ。

*1:『リンダの祈り 性虐待のトラウマからあなたを救うために』リンダ・ハリディ=サムナー著、集英社、p80

*2:たとえばこのページでは、子どもに対する性犯罪の90パーセントが家族や知人によるものだと言ってますね。

*3:あと、「服役が済んで法的には罪の償いが済んでいるはずの人の更生を阻害する」って弊害もあるとは思うんですけど、今のあたしにはこれについて冷静に考える余裕がないのでパス。