『誰が摂食障害をつくるのか』

誰が摂食障害をつくるのか―女性の身体イメージとからだビジネス誰が摂食障害をつくるのか―女性の身体イメージとからだビジネス
シャーリーン ヘス=バイバー Sharlene Hesse‐Biber 宇田川 拓雄

新曜社 2005-04
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「インフルエンザにかかったあるメンバーは、文字どおりアパートの階段をはって降りてクラブにやってきて、ステアマスター[段踏みマシンの商品名]をやろうとしたんですよ。……奴隷になってます。皆さんが何かをしてるんじゃなくて、フィットネス運動が皆さんに(エクササイズを)させてるんです」
上記はフィットネス・トレーナーの言葉として本書のp90で紹介されているものです。かつて摂食障害を運動中毒にスライドさせることで生き残り、まだその尻尾を引きずっているあたしには、耳が痛い発言です。
摂食障害について述べた本はたくさんありますが、本書がユニークなのは、「アイデンティティーの商業化」という観点からこの現象を読み解いて見せている点です。女性に対する「そのままではいかん」という文化的圧力に、利益目当てのダイエット産業・フィットネス産業の「スリムであれ」っていう圧力が加わって摂食障害を煽っている、とする著者の説は的を射ていると思います。
そもそもあたしゃ、古くっさい本なんかで「摂食障害は大人の女性の体になることへの恐れがどーのこーの」と書かれているのを読むたびに違和感をおぼえてたんですよ。色気づいて男にもてたい一心でダイエットに熱中したあげく拒食症に陥る女の子はいっぱいいるのに*1、なんでそれが成熟拒否なのよと。むしろ、「今のままの自分ではいけない」っていう強迫観念が原因なんじゃないのかと。なのでこの本を読んですっきりしました。
自分の体験から思うんだけど、たとえ入院加療で一時的に良くなったって、病院の一歩外に出ればそこは「スリム教」("Cult of Thinnnes"、ヘス=バイパーの造語)と「からだビジネス」が席巻する狂気の世界なわけです。社会的・文化的圧力を批判的に見るということができなければ、摂食障害の根本的治療は難しいので、こういう本は貴重だと思います。これまでに書かれた「個人」や「家族」にだけ焦点を当てている摂食障害本に納得がいかない方の一読をお勧めしておきます。

*1:あたしの場合はレズだから、「男に」もてることはどうでもよかったんですけどね。